笑ってる



 きっと何かを思い出したんでしょう。アスカさんは凄く嬉しそうな笑みを浮べています。

 それは半年前では想像もできない顔でしたけど、今日のアスカさんならどこか納得ができます。

 これが本当のアスカさんの姿なのかもしれません。

 そう思うくらいに慣れた柔らかな笑顔。





「はい」

 かなり遅れて答えたから、アスカさんは意味が分からずにきょとんとした顔をしておられます。

「大切な人たちを放したくないです」

 振り払ってしまった時の大切な人のあの時の顔、もう二度とそんな顔を見たくないです。



「でも、迷惑ばっかり掛けたくないので、この家に来たら体を鍛えたいです

 だっておじさんやお姉ちゃん、アスカさんに心配かけたくないですから」

 倒れてるところしか見せたことのない、アスカさんの前でこんなこと言うのは生意気かもしれません。

「そうだな、じゃあオレもそれに手伝うよ。そういうのには少し詳しいから」

 でもアスカさんは腹を立てる様子もなく、真紅な瞳に優しい色を混ぜて、頭を優しくなでてくれます。

 アスカさんもわたしの知らない間に大切な人たちをみつけたのかもしれません





「お兄ちゃんみたい」

「えっ?」

「お姉ちゃんたちとは違うけど、でも似た感じがして、わたしお兄ちゃんはいませんけど、いたらこんな感じなのかなーって」

 アスカさんは嬉しそうに笑いましたが、どこかに少しだけ寂しさが足されています。

 そして気付きました、わたしが迂闊にもアスカさんの傷に触れたことに



「ご、ごめんなさい!」

 アスカさんは妹を亡くしておられてれるんです。

 それなのにわたしは気安く、兄のようだ、なんて言ってしまいました。

 アスカさんからすれば思い出しくないことなのに………

 励ましてくれた人に、わたし一体なんてことを………



「そう思ってくれるんなら、何よりだな」

「えっ?」

「だってさーゆたかがこの家に来たら、そうじろうさんは父親代わり、こなたは姉代わりだろ、

オレだけ他人扱いだと、悲しいっていうか、浮くっていうか………」

「そ、そんなことないですよー!」

 いじけた仕草をわざとらしくするアスカさん。

 きっとわたしが何を考えたのか分かったのでしょう。

 でもそれでも怒ることもなく、わたしに気を遣ってくれて、大切なことも教えてくれて



「じゃあ、アスカさんは今からわたしのお兄ちゃんです

 よろしくお願いします、アスカお兄さん」

「名字の方にお兄さん付けはおかしくないか?」

「そうですね………、じ、じゃあ、シンお兄ちゃん!」

「まあ、呼び方は別にどうでもいいけどさ」

「はい?」

 笑みを浮べているものの、さっきとは違う笑みの種類です。

「外では呼ばない方がいいんじゃないか? 他の人から見たらオレ達は他人なんだし、男を下の名前、お兄ちゃん付けは恥ずかしいだろ?」

 そう、からかいの笑みです。

「そ、そ、そ、そ、そんなことないですよー! シンお兄ちゃんはお兄ちゃんだから、恥ずかしくないですよー!!」

「あーほら、そんなに顔真っ赤にすると熱が上がるぞ」

「むー」



 新しくお兄ちゃんになった人は優しくて、格好よくて、哀しい過去を乗り越える強さを持ってて、尊敬できる人です





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