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異変に気付いたのはそれからしばらくしてからだった。
何かを聞いても生返事。目はどことなく虚ろ。
「ゆたか、体調………」
「あっ、はい………」
否定するかと思ったけどそんな事はせずに、痛々しい笑顔でうなずく小早川ゆたか。
正直言って見ていられない。
「そこで横になってろ、今何かかけるもの持ってくるから」
オレは小早川ゆたかの方を見ずに、リビングを出た。
早めに気付けてよかったのかもしれない。
そう思えるほどに小早川ゆたかの症状は重くなっていった。
恐らく受験が終わってほっとしちまったんだろう
「……はぁはぁはぁ、ごめんなさい、アスカさん」
「いや、別に」
小早川ゆたかの頭に置いてある、水で濡らしたタオルを交換しつつ答える。
実際にこなた達に振り回されてる時の方が大変だからな
それが楽しいか、楽しくないかは別にして
「……やっぱりわたし、陵桜に合格しない方が、この家に来ないほうがいいですよね………」
体調が悪くなると比例して小早川ゆたかの瞳から明るさが消えていく。
体が弱くなると、考え方も弱くなる。
だからオレの世界では、病気にならない技術が進んだのかもしれないな
「合格しても、きっとおじさんやこなたお姉ちゃんに迷惑かけちゃいますから、今もアスカさんに迷惑をかけて………」
反射的に肯定の言葉が出そうになるのを慌てて飲み込む。
だったら迷惑しないように体を強くしろ
そう言うのは簡単だ。
現に少し前のオレだったら、病気になった時の辛さを知らないくせに、そう言っちまってただろう
でもそれはただ闇雲にこの子を傷つけてしまうだけだ
この子はオレの大切な人達の大切な人なんだ
「ゆたか」
小早川ゆたかの頭に手を乗せる。
同級生のつかさにやる時よりももっと優しく、小さい子にやるように、昔みたいに
「そうじろうさんもこなたも、お前を可愛がってるんだ、そんな事気にしないって」
「でも」
「大切なのは、差し出される手を振り払わない事だ
大切と思ってるものは、手放したくないだろ?」
オレは何度も振り払ってきた。
それでもオレに何度も手を差し伸べてきてくれた。
みゆきはともかくとしてああ見えてあいつ達は案外、人間が出来ているのかもしれない。
場違いな笑みがオレから生まれた。