6
完全に月食を迎えました。
普段の月とは違った色に加え、太陽、地球、月がそれぞれの地点にいなければできないそんな偶然に、
わたしはただただ感動していました。
思わず涙がでそうになるのを、眠たそうに眼をこするふりをしてごまかします。
だってもし見つかったら、お兄ちゃんにますます子供あつかいされてしまうからです。
きっとわたしがお兄ちゃんに『妹』としてしか見られない理由は、これなんです。
小さくて世話が焼けるから、それ以外の感情が生まれるわけなんてないです。
だからわたしが今より、もう少しだけ世話が掛からないようになればそんなわたしとお兄ちゃんの関係も変わるかもしれません。
大人になる
でも、どうしたらいいのかなんて全然わかりません
そこまできてようやく気付きました。
わたしはどうやらすぐに顔に出るみたいで、そのことでよくお兄ちゃんにからかわれます。
きっとさっきもそれがでていたはずです。でもお兄ちゃんは一言も言葉を発しませんでした。
お兄ちゃんは上を、月を、月食をみていました。
懐中電灯をお兄ちゃんに照らすわけには行かないので、よく見えませんが、とても哀しそうでした。
まるで最初にお兄ちゃんに出会った時、いえ、あの時よりももっとずっと哀しそうでした。
「なあ」
呼びかけているものの、お兄ちゃんは誰にも聞いていませんでした。一人で話していました。
「月がこのままだったらどうする
みんな困るよな。怖いって思うよな」
怖い? 普段みたことのない太陽みたいな色になってる月が?
確かにこのままこんな感じだったら、月はこんな色って、いうので慣れて神秘的な感じはなくなっちゃいそうだけど………。
あのとっても強いお兄ちゃんがどうしてそんなに動揺するのかは、わたしには全然分かりません。
きっとお兄ちゃんはわたしなんかが考えもつかないことで悩んでいるんだと思います。
でも一つだけお兄ちゃんが間違っていることがあります。