「このままじゃないよ、お兄ちゃん」

 最後のお兄ちゃんは呼ぶように、そうしないとお兄ちゃんはこっちを見てくれない気がしたから

「……ゆたか?」

 でもちょっと強くしすぎたのか、お兄ちゃんがちょっと驚いた表情で首を向けてきます。

 とりあえずは成功です。だからわたしは続けます。



「月食は終わるんだよ、ほら!」

 指を天に上げます。

 あるのはもちろん月です。

 でもさっきまでと違って、端っこがいつものお月様になっていることです。



「ああ、明るいなあそこは」

「うん」

 お兄ちゃんの言う様にお月様は月食する前よりも、明るくなってる気がします。

 月食もいいけど、やっぱり見慣れたお月様も凄くいいです。

「月食のお陰だよね」

「何が?」



 わたしに今できるのはお兄ちゃんの心の闇に呑まれないようにするだけです。

 もしわたしが今呑まれちゃったらお兄ちゃんは、きっとすっごく後悔してしまうから

 だからせめて明るく、月じゃなくても、小さな星くらいでも



「お月様が明るくなるのは、月食の良さに負けないと頑張っているんだね!」

「……頑張ってか………」



 …………。



 ちょっとの沈黙の後、隣でお兄ちゃんが笑う気配がしました。



「子供だな、ゆたかは」

「あぅっ!?」

 そしてわたしをからかう言葉はいつものお兄ちゃんでした。

 そこからはさっきまでの哀しさは感じませんでした。

 お兄ちゃんのことですからきっと自分だけの力で、解決しちゃったんだと思います。



 きっとお姉ちゃんや先輩なら上手くお兄ちゃん助けれたのに、わたしはやっぱりまだまだです。



「ゆたか」

「なに?」

「月が出てくるまで、まだここにいてもいいかな?」

「……うん!」

 そしてお兄ちゃんはわたしが凍えないように、わたしの側にぴったりと寄りついてきてくれました。



 でもこれからです





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