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月食といってもいきなり食われるというものではないらしい。
始まるとされていた時間に月を見上げても、変化はない。
厳密にいえばちゃんと欠けてきてはいる。
ただそれはコーディネーターのオレの目で見たらだ。
現にゆたかの方は天体望遠鏡と裸眼で交互に見ながら難しい顔をしてる。
気にしてるのはオレだけなのか?
そう思わずにはいられない。どう考えてもゆたかの方が傷ついた感じだったのに。
オレは何もできないまま月を見上げ続ける。
「うわぁー!」
隣で天体望遠鏡を覗いてるゆたかが歓声を上げる。
ようやく月が普通に見えても欠けるのが確認できるようになってきた。
欠けたところがただの真っ暗になるんじゃなくて、赤みが掛かった黒。それは見る人がみれば神秘的とも取れる。
「すごいねー、すごいねー!」
そしてゆたかもロマンチストらしく、普段では想像が付かない程テンションを上げてはしゃいでいる。
そんなゆたかの様子に自然と笑みがこぼれる。
これなら連れてきて良かった、ちょっと嫌な思いをさせたかもしれないけど
再び上を見ると、さっきよりも月は欠けていた。
だけど月食を楽しめたのはそこまでだった。
月が隠れる。
その形だけを残し、今まで夜を照らしていた光が消える。
その光景はまるでオレ、月を消す闇。
明るく光っているものを血の色の様に暗くさせる。
オレはこの世界においてはあくまでイレギュラーな存在。
イレギュラーはいつだって計算を狂わせる。
ましてやオレは平和とは無縁な世界からやってきた、とてもプラスな存在とは思えない。
オレと出会わなければ、あいつ達はもっと笑っていたんじゃないか?
無用な衝突や涙を流す必要がなかったんじゃないか?
オレはあいつ達を闇に引きずり込もうとしてるんじゃないか?