「どうって………」

 突然どうしたんだ? と笑い飛ばすことはできなかった。

 懐中電灯というわずかな光の中でも、ゆたかが真剣になっていることが分かったから。

「…………」

「…………」

 沈黙がオレとゆたかを包む。



 オレはなんて答えたら良いんだ?

 ゆたかはどんな答えを望んでるんだ?



「……血はつながってないけど、妹みたいな、いや、妹だ

 もちろん亡くなった妹の変わりとかそんなんじゃなく」

 結局オレははぐらかさずに、今思っていることを正直に答える。



 最初はやっぱり否が応でも比べてしまっていた。

 でも同じ屋根で生活するうちに、そんな気持ちはどんどん消えていった。

 ゆたかは亡くなった妹とは違う形でオレに接してくる。

 でもそれは間違いなく兄妹の形だった。そしてそれが嫌じゃなかった。



 ゆたかの成長を見守っていたい

 それはオレの嘘偽りの無い気持ち

 嘘を言って大切な人達を悲しませてきた経験から、それが1番だと考えた。



「ダメか?」

「ううん、駄目とかないよ」

 オレの答えがゆたかのお気に召したものでなかったのは、その様子から分かる。

 だからといってどんな答えがゆたかを喜ばせることになったのか、それが分からない。

 分からないからオレはゆたかに続けて声を掛けることができなかった。



 ピーピーピー



 アラームが沈黙を切り裂く。

 月食の時間が始まる合図。

 でもこんな気持ちで月食を楽しめっていうのかよ?



「あっ時間だねー、お兄ちゃん行こ」

 ゆたかの方はまるでさっきのやりとりがなかったかのようにふるまう。

 同じ年のこなた達にだったら、問い詰めたかもしれない。

 でもさっきゆたかに言った通りオレは兄だ。

 妹がせっかく雰囲気を戻そうとしているのに、それをぶち壊すことはできない。



「ああ」

 立ち上がって手を差し出すと、ゆたかはその手を取ってくれた。





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