4
「『ヤツが来る』?」
お姉ちゃんからのメールは、短くそれだけでした。
「ふ〜ん、誰が来るんだろ? ジェイソンとか」
田村さんの言葉に思わず体が膠着します。
この前ゆいお姉ちゃんと一緒に『ジェイソン』を見たので、その映像がフラッシュバックしたからです。
わたしが追いかけられる立場だったらきっと、最初の数分で劇が終わります。
「……大丈夫、ゆたかは絶対私が守るから」
ぼそりと、でもとても力強くて暖かい言葉がみなみちゃんの口から出てきます。
それを聞いただけで、わたしは怖さも不安も消し飛んで、冷静さを取り戻すことができました。
そうだよね、そんな人が来るんだったら、ここに着く前に捕まるよね
「ありがとう、みなみちゃん!」
わたしが笑うと、みなみちゃんは顔を真っ赤にして明後日の方向に向いてしまいました。
やっぱりまだ、お礼を言われるのは照れ臭いみたいです
「キタ、コレキタ………」
傍らで田村さんが不思議な呪文を唱えながら、どこから取り出したのかノートに何やら描いていました。
そしてそんなお姉ちゃんからのメールが来たのを忘れ掛けていた時
ピーンポーン
「……私が出る」
私達の晩ご飯を作るのをやめて出ようとする、ほのかさんを遮り、みなみちゃんが立ち上がります。
みなみちゃんが困惑な表情を浮べて戻ってきたのはすぐのことでした。
「なに? 勧誘の人しつこいのかしら?」
ほのかさんの言葉にみなみちゃんは首を振って、なぜかわたしの方を見てきます。
「シン、先輩、らしき人が来てる」
「らしき?」
頷くみなみちゃん。
顔を向かい合わせるわたしと田村さん。
「すっごい怪しいね」
みなみちゃんに連れられてドア越しから見える人は、ヘルメットに全身黒づくめ、どこをどうみても怪しい人です。
「……でも声はシン先輩………」
みなみちゃんが判断に困ったのはすごく分かります。
正直言ってわたしも全くわかりません
でもあれが本物のお兄ちゃんだったら、待たせてるのはすっごく悪いし
「小早川さん携帯掛けてみたら」
「あっ、そっか」
田村さんのアドバイスを受けて、わたしはお兄ちゃんの携帯に掛けます。
と、同時に男の人はもぞもぞしはじめました。
「決まりじゃない?」
みなみちゃんも頷きます。
「でもなんでお兄ちゃん、来たんだろう?」
わたしは不思議に思いながらドアを開けました。