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「ゆたかー!」
瞬きをするくらいの一瞬で、お兄ちゃんはわたしの前に文字通り飛んでやってきました。
「お、お兄ちゃん! と、取りあえず、へ、ヘルメットを取ったら?」
少し裏声になりながら、わたしはお兄ちゃんにそう提案します。
お兄ちゃんと分かっていても、こんな夜中に全身黒づくめはちょっと怖いです
「ああ、そうだな」
そう言ってメットを取ってお兄ちゃんの顔が出てきた時は本当にほっとしました。
もしも首がなかったりしたらどうしようとか、ちょっとだけ考えていました。
そしてお兄ちゃんはスーツの中に手を入れます。
そんな行動を不思議に思ったのは少しの間だけでした。
「ゆたか誕生日、おめでと」
渡されたのはお兄ちゃんの体温で少し暖かくなってる、小さなラッピングされた小箱でした。
「お兄ちゃん、わたしの誕生日………」
「ああ、その日にちゃんと渡さないとな」
知ってたんだ
言ってもいなかったのに、わざわざプレゼントを選んでくれた。
お姉ちゃんたち家族からは祝われたり、みなみちゃんや田村さんとは祝われた時とも全く違う嬉しさがわたしの小さな体を満たしていきます。
きっと、お姉ちゃんや先輩たちもお兄ちゃんから誕生日プレゼントを受けた時は、今のわたしと同じ気持ちになるんだと思います。
「あんまり期待すると後でがっかりするぞ」
「そ、そんなことないよー!」
少しぎこちない様子でわたしは首を左右に振ります。
はぅ〜また頭がぼーっとして、上手く言葉が出てこない、でもお礼だけは言っとかないと
「あ、ありがとうお兄ちゃん、今日バイトのはず―――」
「そうだったー!」
わたしのなんとか出した言葉はお兄ちゃんが出した大声によって、かき消されます。
さっきとは別の意味で呆然としているわたしを尻目にお兄ちゃんはメットをかぶり、バイクにまたがります。
「じゃあ、ゆたかまた明日な」
それだけ言い残すとお兄ちゃんはまるで流星の如く駆けて行ってしまいました。
あれ、お姉ちゃんに見つかると捕まると思うんだけど………
「なんていうか、騒がしい人だね〜」
「……あんまり他人の事を考えてない人だから………」
「あ〜なんとなくは知ってた」
わたしのところに来ながら、そんな会話をしてくるみなみちゃんと田村さん。
ごめんなさいお兄ちゃん、何も言い返せませんでした。
だって本当のことだから
でもね
「そこが、お兄ちゃんのいいところなんだよ」
わたしはそんなお兄ちゃんがとても眩しくて、憧れで、それが恋って気付いたのはつい最近のことです。
「ほうほう」
田村さんは興味深そうに、みなみちゃんは小さく頷き、わたしの方を見てきます。
もう二人とも知ってると思うけど、今日の夜話す時、改めて宣言したいと思います。
わたしはお兄ちゃんが大好きです
〜 f i n 〜