どうかしている



 何もする気がなく、俺は寝そべってようやくに見慣れてきた天井を見つめていた。

 妹と重ねるなんて本当にどうかしている。



「チッ!」

 小さく舌打ち、頭は冷静になってきてるのに、体には未だその感触が抜けない。

 しかも腹が立つ事にそれを心地良いと思ってる自分がいる。

「過去に囚われてる、か」

 

 こんこん



 ノックの音がオレを思考の沼から現実へと引き上げる。

「すみません、わたしです、ゆたかです。

 少しいいですか?」



 なんで来るんだよ?



 返事よりもまず心の中で悪態をつく。

 話す事など何もない。

 話せば話すだけ思い出す。そして違うと思い知らされる。

 だけど立場的にも、心情的にもこっちに拒否するという選択肢は取れない。

「ああ、今開ける」

 俺はベッドからわざと音を立てて立ち上がり、舌打ちを消した。





「失礼します」



 オレは無言で小早川ゆたかをイスに座る様に促す。

 小早川ゆたかは一瞬躊躇ったけど、意を決したかの様にイスに腰を沈めた。



「お、おじさんに聞きました! そ、その、アスカさんの、ご、ご家族のことを………」

 オレが見ると小早川ゆたかは徐々にトーンダウンになった。

 今すぐにでもそうじろうさんのところに怒鳴り込みたいところだけど、

そうじろうさんが小早川ゆたかに話したという事はオレに非があるって意味なんだろう。

 そうじろうさんは普段は飄々としてるけど、いざとなると伊達に年を食ってないってところを見せてくれるし、

今まであってきた中でオレは一番信頼できる大人と思ってる。

 まあ今回ばかりは自分が悪いとはオレも思ってる。



「それでなんだよ? オレを可哀相と思ってわざわざ来てくれたのか?」

 オレは挑発的な口調で小早川ゆたかに問い詰める。

 ただ、分かってはいるけどどうにもやりきれない。こんな事目の前の女の子にぶつけても意味がないと分かっていても。





戻る   別の日常を見る   進める