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インパルスが不満そうな音を上げる。
せっかく久しぶりの出撃だってのにこんなスピードなら、文句も言いたくなるのかもしれない
とはいえそこは我慢してもらわないと困る。
なんてたって後ろに乗ってるのは、オレの『家族』なんだから
今度のメンテは念入りにしてやろうか
せめてものお詫びにと考えていた時に異変に気付いた。
後ろのゆたかのオレにしがみつく手が不自然なくらいに力が入っている。
バイクに乗って2時間弱、限界がきてしまったのかもしれない。
オレは出発前に叩き込んだ周囲の地図を脳内で広げる。
確か、ここらへんに土手があったはず………
「もうちょっと、待ってろよ」
メット越しからの呟きが聞こえるはずがないけど、ゆたかが頷いた気がした。
「ほらお茶だ」
「ありがとう、お兄ちゃん」
買ってきたペットボトルを受け取るゆたか、その様子には元気がない。
それが乗り物酔いか、それともオレに迷惑を掛けたと思って自分を責めてるのかは分からないけど、ゆたかのテンションは明らかに低い。
ただそれが分かってもオレにはどうしていいか分からない。
こなたやゆい姉さんならきっと上手くやれるんだろう
何度も思うことだけど悔しい。本当にオレは力しかないのだと実感させられる。
「お兄ちゃん」
「ん?」
ゆたかの方を振り向くけど、ゆたかはオレを見ずに目の前を流れている川をジッと見ていた。
「シンお兄ちゃんは妹さんに迷惑かけられましたか?」
ゆたかがわざわざ他人行儀の様な言葉遣いをしたのは、オレの本当の妹が亡くなっているから。
どんなに思っていても、オレとゆたかは本当の兄妹にはなれない。
オレもゆたかもそれを理解してはいるけど、口に出す事はない。
そんな暗黙の了解を破ってまで聞いてくるという事は、ゆたかがそれほどまでに自分を追い詰めてる証。
オレとゆたかは本当の兄妹でもないし、血の繋がりすらない。
知り合って1年位しか経ってないし、同じ家に住んで半年しか経過していない。
それでもオレはゆたかの家族として、ゆたかの力になりたい