なんか遅くないかこの電車? どうも1駅、1駅に止まってる時間がいつもよりも長い気がする

 そう感じるのは間違いなくオレの気のせい

 きっと電車はいつもと同じスピードだ

 じゃあなんでそんな事を思うかって理由は1つ。一刻も早く彼女であるつかさに会いたいからだろう



 去年も一昨年も誕生日を祝われたけど、今年ほど嬉しい誕生日はない

 なんてったって今年はつかさが祝ってくれるんだからな



『誕生日、もうすぐだね

 わたしの知ってる美味しい店を紹介するね!』



 あん時のつかさ、すっげぇ可愛かったな



 つかさは一体どこにオレを連れってってくれるのか?

 そりゃつかさご推薦の店だ、きっと料理はかなりのもんだろう

 ただそれよりも嬉しいのは、つかさがオレの為に、オレの誕生日を祝ってくれるという事だろう



 ニヤけた笑みを他人に見られない為オレは窓の外に首を向ける。

 健気で可愛くて、ちょっと危なっかしくてほっとけない、でも心の内はすっごい強くて、

純真無垢でオレの彼女である事が勿体ないそれほどまでに綺麗な女の子

 そんな子がオレの誕生日を祝ってくれる。

 それだけでもオレには過ぎたる事なのに、オレはつかさにそれ以上を望んでいる。それ以上の事を望んでいる。



 だけどそれは出来ない



 踏み止まらせてるのは、今まで積み重ねた業



 オレなんかがつかさを本当に穢していいのかという



 そりゃオレ達は恋人同士なんだし、そういう事を求めても不自然じゃないのかもしれない

 ただつかさの清らかさに対して、オレは血で染まりすぎている。

 それが一線を越えれない理由

 何よりつかさがそれを望んでいないかもしれない

 夢見がちなつかさの事だから、もっとプラットニックな関係を求めているかもしれない

 オレはつかさに嫌われたくない



 窓越しに映るオレはとても歪んでいる。

 つかさならきっと、ちゃんとした姿が映し出されるはずだ



「雨か」



 それが水滴に寄るものだという事に気付いたのは少ししてからだった。

 そしてやがて、その水滴はオレの姿をかき消した。





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