『プレゼントはタイミング』
1
「今日は和菓子に挑戦してみたの」
「わあ〜」
そう言ってあやちゃんが出してきたものは羊羹だったの
さすがあやちゃん、和菓子ってすっごく難しいのに形が整ってる、それに味も
「おいしーい〜」
「ありがとう、ひーちゃん」
峰岸あやのちゃん、お姉ちゃんとの繋がりから知り合って両方とも料理が好きで打ち解けて、今では大の仲良し
「あやちゃん」
「どうしたの? アスカ君絡み?」
それに彼氏がいる同士でお互い相談し合う仲
といっても、わたしがアドバイス貰うことの方が圧倒的に多いんだけどね
「あやちゃんは付き合ってどれくらいで、そ、その、……H、したの?」
あやちゃんは、口元に寄せる湯飲みを一瞬だけ止め、すぐに何事もなくお茶を啜る。
すごーい、ぜったいわたしだったらしばらく固まってるよ
「でもひーちゃん、ついこの前アスカくんと海に行ったんじゃないの?」
「う、うん、行ったんだけど…けっこういい雰囲気にもなって、これからって時に寝ちゃって………
その後も何度か夏休み中にデートもしてるんだけど、シンちゃん全然そんな様子見せないし、
……わたし、彼女っていうか、手のかかる妹みたいなのかなーって………」
「それはないと思うけど
少し前にひーちゃん達とダブルデートした時思ったんだけど、アスカ君はひーちゃんの事を本当に大事にしてるって見えたけど?」
「そ、そうかな………?」
別に疑ってるわけじゃないけど、やっぱり不安
もちろんシンちゃんは悪くないし、わたしが未だに子供っぽいのが原因なんだけど
「ただひーちゃんの心配も分かるかな
アスカ君って騎士みたいだもんね、ひーちゃんを何がなんでも守るって感じの」
「う、うん………」
さすがあやちゃん、あっさり見抜いてる
「でもひーちゃんはアスカ君に王子様になって欲しいのよね?」
さすがあやちゃん、あっさり見抜いてる
「う、うん………
でも女の子からそんなこと言うのって、やっぱり嫌われちゃうかなって」
興味がないってわけじゃないけど、わたしはこういう話はちょっと苦手
ただあやちゃんや、付き合ってる専門学校の友だちがその話をする時にみんなが口を揃えて
一つになった感じ
もっと相手のことがわかる
そんなことを聞いちゃったら、わたしもシンちゃんと、って思ってしまう
だってわたしはもっと、もっと、シンちゃんと仲良くなりたいし、シンちゃんのことが知りたいから
「う〜ん」
お手本のような仕草で湯飲みを机に置くあやちゃん。
この様子からとても同い年には見えないくらいに、あやちゃんは落ち着いている。
お姉ちゃんとは違ったタイプのできる女の子って感じ
わたしもこんなんだったらシンちゃんに迷惑かけないんだけどなー
「やっぱりタイミングかな?
ひーちゃんが自分で思ってるよりアスカ君といい雰囲気だと思うし、だからそんなに気負わなくても大丈夫、近い内にアスカ君と、ね?」
「う、うん、ありがとう!」
そう言われると気持ちが軽くなる。
でもこんなに単純だから、シンちゃんにいつまでたっても本当の『彼女』って見られないのかも
♪これ以上〜♪
また思い悩みそうなところで、シンちゃんからのメールが入る。
「あっ、バイト終わったみたい」
「じゃあ、そろそろ行かないと」
いそいそとわたしは準備を始める。
今日はシンちゃんの誕生日を祝ってデートなの♪
「あやちゃん、ありがと
今度また和菓子の作り方、教えてね」
「うん、またメールしてね
ひーちゃん、ファイト!」
あやちゃんの言葉にわたしは笑って頷いて、待ち合わせ場所の駅へと向かった。