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つかさが振り向いた時オレはこれほどまでに綺麗で眩しいものを見たことがなかった。
沈みかけても神秘的な色の明るさの太陽、その色を引き伸ばして見せている空、
そしてそれを反射して黄昏色に輝く海面、そのどれもがつかさの輝かしさを引き立たせるものでしかなかった。
そしてその場のヒロインは言葉を紡ぐ。
「わたし、柊つかさは何があってもシン・アスカという人を―――」
もう後1秒でもあればつかさは恐らくオレへの想いを言えていただろう。
後1秒 あ れ ば。
高さで言うと2メートル弱、波としては小さいほうだ、だがつかさを隠すには十分な大きさだった。
「あじゃぱぁ!?」
奇妙な言葉と同時につかさの体は波に隠される。
そして波が引いて残っていたのは、頭から海水を被り全身ずぶぬれになり、何が起こったのか分からず、目を大きくしているつかさだった。
「プッ、アハッ、アハハハハハハハハ―――」
その姿の可笑しさと可愛さでオレは力一杯噴き出していた。
「あう〜ひどいよ〜波もシンちゃんも〜」
「ハハッ、悪かった」
オレは持ってきていたタオルでつかさの体を拭いてやる。
「でつかさ、さっきの続きは?」
「もういいよー今は台無しだもん」
珍しくむくれるつかさ、でもその姿も可愛い。
「ねえ、シンちゃん」
「ん? なんだ?」
「シンちゃんの気持ちは分かったんだけど、じゃあどうして、海に行きたがったの?
それとなんでサングラスしたの?」
「うっ………」
つかさの質問にオレはゆっくりとつかさから視線を逸らす。
これは言えるわけが………。
「どうして?」
つかさにしては珍しく食いついてくる、恐らくオレに大笑いされたから理由くらいは聞かないとやるせないのだろう。
「どうして?」
「……分かった、言うよ」
3度目の攻撃にオレはついに白旗を出す。
「……そ、その…見たかったんだよ………」
「何を?」
「……水着だよ!つかさの水着姿が見たくて、海にしたんだ!!」
半ばいやほぼヤケクソな状態で言葉を放つ。
「……そ、それだけ?」
「ああ! それだけだよ! 悪いかよ!?」
案の定ポカンとしているつかさに、オレは必殺(認めたくはないが)の逆ギレを使う。
「じ、じゃあ、ひ、ひょっとしてサングラス付けたのって………」
「ああ、そうだよ! お前に目線を気付かれないためだよ!!」
最早破れかぶれ、この段階でオレは過去最高値の逆ギレを大きく更新していた。
「ずっとわたしを………?」
「ああ見てたさ!! 可愛い彼女の水着姿をな!!!」
どうやらどのベクトルでも一定の高みになると、自分でも何を言ってるのか分からなくなってくるらしい。
「シ、シ、シ、シンちゃんのエッチ〜!!」
オレのカミングアウトを聞くと、つかさはこの場にいるどれよりも赤くなり、旅館の方に走っていってしまった。
そしてオレは自分のした浅はかでこっ恥ずかしい行動に、頭を抱えてその場にうずくまっていた。