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「つかさ、確かにオレはあの子の事を忘れる事なんて出来ないと思う、きっとそれはオレが死ぬまでだ」
そこで一度言葉を区切るとシンちゃんはサングラスを外す。
そして綺麗な紅い瞳でわたしを見てくる、そう、わたしを………。
「でもな、オレだって生きている人間と死んでしまった人間どっちが大切かは分かっているつもりだ
そしてそれを教えてくれたのがお前だ、つかさ」
「えっ?」
わたしがシンちゃんに………?
「お前という存在がいたからオレは知る事が出来たんだ。
本当に大切なものを、守りたいものを」
そう言いながらシンちゃんは一歩ずつわたしに近づいてくる。
「つかさ、お前を愛してる」
シンちゃんのその言葉を間近で聞いたら、わたしの目から涙が溢れ出したの。
シンちゃんはずっとわたしを見てくれていた、それなのにわたしはシンちゃんはあの子を見ていると思っていた。
逃げていた、敵わないと思って、そう言われるのがシンちゃんの口から直接聞きたくなかったから、でもそうじゃなかった。
わたしはシンちゃんにとってもとっても愛されてるんだって今分かった。それなのにわたしは………。
だから、涙が止まらなかった。
「ごめんね、ごめんね、シンちゃん」
「なんで泣くんだよ? つかさはオレを心配してくれたんだろ? だから気にする必要はないさ」
シンちゃんはわたしの涙の意味を分かって、それを手で拭いて慰めてくれる。
「で、でも………」
「オレはつかさの笑顔が大好きなんだ。だからそれを奪うヤツは許さない、なのにそれを奪うのがオレだったら格好つかないだろ?」
「う、うん!」
わたしは涙を自分で拭くと、自分の中で飛びっきりの笑顔をシンちゃんに見せる。
シンちゃんはそれを見て笑ってくれた。そして―――
夕焼けを背に大好きな人とのくちづけ。
それはドラマを見て思ってたより、ううん、それ以上に、甘くて、優しくて、嬉しくて、溶けそうなそんな感覚。
短くて長い、そんな時間が過ぎると、わたしはシンちゃんから離れて、海の方へ歩き出した。
そして海水が足元にかかるくらいの場所でくるりと半回転して、世界で一番愛してる人の方へと振り向く。
「シンちゃんがちゃんと言葉で言ってくれたんだもん、わたしもちゃんと言うね」
海水の冷たさが火照った体にはものすごく気持ちよかった。