『……つかさ? まさか………?』

「ち、違うよー普通の水着だよー!」

 なるべくこなちゃんに気づかれないように、わたしは努めていつも通りに返したの。

 だってこなちゃんに心配は掛けたくなかったから。



『じゃあいいんだけど………。

 ほらシンがつかさと海行くって言った時さー、なんていうのかなー思ったんだよね、この男はまだ過去に引きずられてるのかーってさ』

「あはは、そんなことないよーシンちゃん強いもん」

『まあ、つかさみたいな可愛い彼女がいれば大丈夫だろうけどねー

 でもつかさ、なるべく海では天然な行動は止めたほうがいいよ〜シンのトラウマが刺激されるから』

「もう、だからわたしは天然じゃないってー

 あっ、シンちゃんを待たせてるからもう切るね」

『はいほ〜い、じゃあ帰ったらラブラブ話でも聞かせてもらうねー』



 ぷっ



 こなちゃんありがとう。

 わたしは姿の見えない親友にお礼を言った。

 きっとこなちゃんはわたしとシンちゃんとの仲が悪くなってるんじゃないかと心配して、電話を掛けてきてくれたんだと思う。

 お姉ちゃんやこなちゃん、それにゆきちゃん、この三人はいつでもわたしとシンちゃんの仲を応援してくれている。

 みんなの好きな人を取ってしまったわたし、それなのにみんな変わらずわたしと接してくれる。みんなわたしの大事な人。

 だからその人たちにはこれ以上迷惑を掛けたくなかった。

 だからわたしは自分の力でシンちゃんと幸せになりたい、それがあの人たちへわたしが出来る唯一の恩返しだから。



「つかさーまだかー?」

 襖越しからシンちゃんが尋ねてくる。

 ど、ど、ど、どうしよー!? わ、わたし、水着ってこれしか持ってないよー、水着忘れたことにする!?

 でも、それだったら天然って思われて、シンちゃんが………。

 さっきの強い決意はどこへやら、わたしは同じところをぐるぐる回り始める。

「よし、開けるぞ!」

「えっ、まっ―――」

 わたしの止める声は間に合わず、わたしとシンちゃんを隔てていた、襖が開かれる。



「…………」

「…………」

「よ、よし行くぞ!」

 シンちゃんは声を掛けるとくるりと反転し、歩き出した。

 シンちゃんの声は明らかに動揺していて、わたしの方をなるべくみないようにしていた。



 仕方ない、仕方ないよね…あの子はシンちゃんに取って大事な忘れられない人だから………。

 わたしはシンちゃんの後を追いながら、自分にそう言い聞かせていたの………。





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