さて旅行当日。

 振りしきる太陽の光を背にオレはチラリと自分の腕時計に目をやる。

 只今の時間は正午少し回ったところ。

 今からスッ飛ばしたとしても、予約していた旅館に着くのは夕方前に着く事は出来るはずだ。

 しかし予定ではもっと早く、それこそ昼過ぎには着くはずだった。そう、予定では。



「ごめんなさ〜い」

 オレにジト目を投げかけられた少女は泣きそうになりながら謝ってくる。

 予想通りというかなんというか、つかさは寝坊したのだ。

 どうやってもつかさが起きないので仕方なくオレは柊家でお茶をもらいつつ、待っていたらこんな時間になっていた。



「で? なんで、昨日早く寝なかったんだ?」

 オレは頭を押さえながら、だらしない自分の彼女に尋ねる。

「え、え〜と…言ったら怒りそうだから、言えない………」

「言わなかったらもっと怒る」

 オレの言葉を聞いてアワアワしだすつかさ。

 こういう可愛いリアクションを取られるから、ついついつかさをからかってしまう。

 子供じゃない、男というのはこういう生き物だ。

 ただまあ少しはオレも怒ってる。せっかく初めての旅行なのに寝過ごされたのだから。



「あ、あのね、シンちゃんと初めての旅行だから嬉しくってなかなか寝られなかったの………」

「子供か!?」

「ごめんなさ〜い!」

 ったく、前日あれほどまでに寝坊するなと言ったのにこのザマだ。ただ………。

「ごめんね、ごめんね。でも本当に楽しみにしてたんだよ。だから、やめるなんて言わないで………」

 上目づかいで涙をためてオレを見られたら、これ以上言う事が出来ない。

 オレだってこの旅行を楽しみにしていたのだから………。



「いつまでもこんなところでこんな事やってても、どんどん遅れるだけだ

 ほら行くぞ!」

 オレはつかさの頭少し乱暴に撫でるとバイクにまたがる。

「あっ、う、うん!」

 オレの後を追ってつかさが慌てて後ろに乗る。



「もっとくっつけ! 遅れた分、飛ばすからもっとくっ付かないと、振り落とされるぞ!!」

「う、うん………」

 オレの怒声につかさは少し驚いたものの頷いて、しっかりとオレに抱きついてくる。



 ごめんなつかさ



 オレは心の中でつかさに詫びる。

 怒声を出したのはわざとだった。こうすれば自然な感じでつかさに引っ付いてもらえる事が出来るからだ。

 待ちぼうけをくらったんだから、これくらいの恩恵にはあずかっていいよな?



「よし、シン・アスカ行くぞ!」

 こうしてオレ達は出発した。





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