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楽しい楽しい家族での夕食も終わって、皆それぞれの部屋に戻っていく。
居間に残ってるのはわたしとお姉ちゃんだけ。
音はテレビから聞こえてくるものと、台所から聞こえてくるお母さんが食器を洗う音だけ。
「お姉ちゃん………」
「ふぁーに?」
大好きなポッキーを口にくわえながら、お姉ちゃんはテレビを見たまま返事をしてくる。
でも意識はちゃんとわたしの方に向いていてくれている。
「シンちゃん怒ってる、よね………」
今日の昼食の時間に生まれたこの気持ちは、その後あの人からいつも通りに話しかけてこられても、
消えるどころかますます大きくなっていたの。
「なんでそう思うのよ?」
「シンちゃんを傷つけた…みたいだったし、だから………」
わたしの言葉はあの人を傷つけた、それは間違いじゃない。
でもわたしには、なんで、どれで、あの人に傷をつけたのか、それが全然わからなかったの。
そんなんだからわたしはちゃんとあの人に謝れなかった、どうしていいかわからなかった。
わたしはどうすることもできない、わたしは大好きなあの人を傷つけたのに。
「じゃあ、つかさが逆の立場だったら?」
「えっ?」
お姉ちゃんは言葉を聞かせるように、わたしにポッキーを勧める。
わたしは頷いて袋から一本取り出しそれをくわえ、お姉ちゃんの次の言葉を待った。
「つかさがシンの言葉に傷ついた、それなのにシンはなんで傷つけたか分かっていない、どう思う?」
「……わたしだったら、怒らないかな…わざとじゃないってことはわかるもん、シンちゃんは自分から他の人を傷つけたりしないから
……でもやっぱりへこむかな」
本気で言っちゃったから、照れ隠しで最後は少しおどけるわたし。
お姉ちゃんはそんなわたしを見て、ポッキー一本取ってから、わたしに再び勧めてくる。
「大丈夫、怒ってないわよ」
わたしがポッキーを取ろうとした時に、まるでいつもの会話と同じ様子で答えるお姉ちゃん。
だから思わず聞きもらしたんじゃないかと一瞬思ったの。
あっ、べ、別にいつもお姉ちゃんの言葉を聞きもらしてるってわけじゃないよ、それくらいあっさりしてたって意味だよ!
「シンもあんたがわざとやったんじゃないって分かってるわよ、それこそもう付き合いも長いんだし」
最後を笑いながら言うとお姉ちゃんはテレビへと視線を戻す。
「お姉ちゃん聞いてくれたの?」
「そ、そんなわけないでしょ!? なんで私がライバルのあんたのフォローしなきゃならないのよ!
たまたま、話の流れでそうなっただけ、たまたまよ!」
「お姉ちゃん………」
ありがとう、それを口にしないのは、それを言ったらお姉ちゃんはきっと怒るから。
お姉ちゃんはそんな人、優しくて、頼りになって、なんでもできて、少し照れ屋さんで、尊敬できるお姉ちゃん。
そういうところはあの人も一緒
だからなのかな、あの人はお姉ちゃんにはなんでも話すし、とっても信頼してる、あの人を助けれるくらい強い。
わたしとは違う、羨ましい………
でも、そうやって羨ましがってるだけじゃダメなんだよ
いつかわからないけど、なれるかもわからないけど、わたしもお姉ちゃんみたいにあの人を助けたい。
だってわたしはあの人のことが好きだから