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「そして月面に叩きつけられたオレは、気が付くとこなたの家の居間で倒れてた

 ここからはつかさも知っての通りだ」

「…………」

 わたしはなにも言えなかった。

 何かを言おうとはしたんだけど、言葉が出てこない。

 あの人の話は驚きの連続。

 わたしの中で頭がまだ追いつかない。

 だからそんな状態でなにか言ったらまたあの人を傷つける。

 そんな気がしてなにも言えなかったの………



「いきなりこんな事言われたって混乱するだろ?

 だから、ゆっくり考えて答えを出してくれ。別にそれが1週間、1ヶ月掛かってもいい。

 そして出来るなら答えを聞かせてくれ」

 あの人は穏やかな瞳で優しく言ってきてくれる。

 確かにわたしの頭の中はまだ混乱中。

 でもわかったことがあるよ。

 それは



 あの人はあの人ってこと



 とっても優しくて、温かくて、頼れて



 わたしが大好きな人ってこと



「オレは最初はここで空ばっかり見てた。でも今は町の方ばっかり見てる

 この景色にはオレが守る人達がいる

 こなた、ゆたか、みゆき、みなみ、かがみ、そしてつかさ、今度こそ守りたい人達だ」

 町の方に目を向けて話を続けるあの人。

 でもそこに映ってるのはさっきまでの穏やかな瞳じゃなかったの。

 それは時々わたしたちに見せる自分への嘲りの笑み。

 前まではなんでそんなことになるのかまるでわからなかったけど、今だったらなんとなくわかる気がする



「シンちゃん、さっき言ってたあっちの世界で大切な人たちってシンちゃんのことを………」

 だからわたしは思わずあの人に尋ねていた。

「怨んでるだろうな」

 あの人はさっきよりもますます自分への嘲りを強くして、わたしの質問を遮り答えた。



 どうしてそんな瞳をするの?

 どうして怨んでるなんて思うの?

 どうしてそんなに自分を責めるの?



「違うよ!」

 見ていられなくなってわたしは一声叫ぶとあの人に抱きつく。



 きっと違う

 守ろうとしてくれた人を怨むはずなんてない

 絶対に嬉しかったはずだよ

 わたしだけじゃないよ、きっとみんなそうだよ!



「守ろうとしてくれてありがとう、そう思ってるよ!!」

 わたしは今言えるだけのことをあの人に伝える。



 だって誤解は解かなくちゃ



 悪いことばかり考えたらだめだから



 哀しむ顔なんて見たくないから





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