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 オレの運動能力をもってすれば、すぐに走ればつかさに追いつく事が出来たはずだ

 だけど出来なかった

 突然のつかさの出現、その言葉に虚を着かれたってのもあるけど



『いや、こないで………』



 拒絶された時の光景が再び浮かび上がってしまったからだった。



「つかさ! 待ちなさい!! 待って!!!」

 半狂乱の様に叫びながらかがみが後を追おうとするが足がもつれたのか、体が大きく前に傾く。

「かがみ!!」



 間一髪、前に回りかがみを受け止める。

「大丈―――」

「いいから! わたしはいいから!! つかさを追いかけて!! 止めて! つかさが! つかさが!!!」

「……かがみ………」

 オレの中でかがみが暴れ、喚き立てる。

 そんなかがみの姿にオレは言葉を失う。

 こんなに取り乱したかがみを見るのは初めてだった



「シンさん」

「……みゆき」

「今回の一件は全て私の言動に責任があります………、それを承知でお願いします!

 もっと足掻いて下さい! 諦めないで下さい!!

 つかささんを………、お願いします!!!」

 みゆきがこれでもかというくらいに頭を下げる。

 おそらくレンズには無数の水滴がついているんだろう。



 思えばここ最近の皆の様子は明らかに違っていた。

 こなたも、かがみも、みゆきも

 そしてオレも

 まるでこの世界にきた当時のオレみたいに余裕が無くなっていた。



 それは全部あの時から

 つかさがオレ達の輪の中から消えたあの時から





「かがみ、まかせろ! つかさは必ず連れて帰る」

「……シン」

 オレは力強く頷くと、かがみをみゆきに委ねる。

「みゆき、かがみを頼む。

 それと、ひょっとしたらつかさが戻ってくるかもしれないから、頼むな」

「はい!!!」

 そして隣で準備運動をしてるこなたに声を掛ける。

「行くぞ、こなた!」

「ばっちこーい!!」

 親指を立てるこなたにかがみが真剣な顔で近づく。

「こなた…さっきはごめん、……つかさをお願い」

「おおーかがみのデレキター」

「こなたー!!」

「かがみのツンキタ〜」

「あんたってやつは〜」

「まあまあ」

「お前達飽きないな」



 相変わらずのやりとり、でもこんなやりとりをするのは久々だった。

 さっきまで全員がバラバラだったのが嘘みたいだ。

 まったく大した効果だ。1回のそれもあんなぎこちない笑顔だったってのに。



「かがみまかせてよ、わたし達のつかさは必ず連れて帰る!」

「それさっきオレが言ったんだけどな………

 とにかく行くぞ!!」



 そう、オレ達にはつかさが必要なんだ





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