24


 お昼休みが終わって最初の授業は桜庭先生の授業。



「では前に決めたグループで今日は実習をしてもらう」

 実習のグループは二人一組の男女ペア、そしてわたしの相手は…あの人………。

 普通だったらすっごく嬉しいし、実際に昨日まではすっごく楽しみにしてたのに

 でも今はその逆、嬉しい気持ちなんて少しもなくて、少しでも早くこの授業が終わってほしい



「ほい、柊」

 今日のプリントが回ってくる。そしてわたしはこれをあの人に渡さないといけない



「あ、あ、あ、あ、あの………、ア、ア、ア、アスカ君………、こ、こ、こ、これ………」



 声が出ない

 舌が回らない

 夏でもないのにのどがすごく渇く

 そしてやっぱり『アスカ君』としかあの人を呼べない

 まるでわたしのものじゃないみたいに言葉が出るのを嫌がってる

 もうやだよ、こんなの………



「サンキュ」

 わたしからのプリントを笑顔で受け取るあの人。

 でもそれは無理しているっていうのがわかっちゃう

 だって、一度は想いを募らせた人だから、ううん、今だってその想いはわたしの心の奥にだけどちゃんとある



 無理をしてでも笑いかけてきてくれるあの人。

 それなのにわたしは沈んだまま、拒絶したまま。



 どうしてあの人はここまでしてくれるの?

 どうしてわたしに歩み寄ろうとしてくれるの?

 わたしはひどいことばかりしてるんだよ?

 それなのに

 なんでまだ手を差し伸べてくれるの?



 お姉ちゃんのため?

 こなちゃんのため?

 ゆきちゃんのため?



 ……違うんだよね………



 あの人は自分の意志でわたしとまた話そうとしてくれてる

 わたしと話したいからそうしてくれる

 なぜかはわからないけど、あの人はわたしを必要としてくれる

 こんなわたしを大切だって、今も想ってくれている



 なのに、わたしは………



「ごめんなさい………」



 わたしにできるのは、あの人の背中に消えるくらいの小さな声で謝ることだけだった。





戻る   別の日常を見る   進める