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 翌日の朝、オレとこなたはいつも通りの集合場所へと急いでいた。

「いやーまた遅れたね」

「ああ、そうだな」

 全然面目なさそうじゃないこなたに、オレは適当に相槌を打つ。

 やる気なく答えたのは、あまりに日常化しているこなたの寝坊に呆れてるというのもあったけど、主な原因は別にある。



「何かあったシン?」



「何も」

 答えたのは刹那の沈黙の後だった。

 不自然ではない程の間、かといって自然とは思えない長さの間。



「ほら、そうやって話を逸らそうとしても、お前のせいなのは変わりないからな」

 こなたが詮索してくる前にオレは会話を続ける。

 今こなたに話せば余計な心配をさせるだけだ。



 日付が変わったら事態が好転している事だってある

 つかさはあの時アイツ達にからまれて混乱もしていたはずだ



 なんとか有利な解釈を上げて自分を安心させる。

 だけど別に希望的観測でもなんでもない、充分にありえる事だ

 そう、今日いつも通りつかさと挨拶を交わせれば今回の件は終わる

 こなたやみゆきに余計な気を配らせる必要もない



 顔を上げると2人の姿が視界に入った。





「おはよう、かがみ」

 いつも以上に明るく、だけどわざととは思われないくらいの範囲内で、かがみに声を掛ける。

 まずかがみに声を掛けたのは、ワンクッション置く事で何気ない流れでつかさに声を掛けるためだ。

 いきなり直接普通に挨拶したら、つかさも反応に困るだろう。



「おっす、今日は珍しく爽やかね」

 恐らくオレの考えを読んでくれたのだろう、かがみもいつも通りの口ゲンガのきっかけを作って返してくれる。

「ハァ? オレはいつだって爽やかだろうが!?」

「それこそ、はぁ? よ。あんたのいつ、どこが、爽やかなのよ?」

「何っー!?」

「何よ!?」

 そう、これがいつもの朝だ



「おはようつかさ」

 勇気付けられたオレは、いつもと同じ様につかさに声を掛ける。



「…………」



 だけどつかさは顔を下向けたまま、決してオレの方を見てはくれなかった。



 ピシッ



 何か、ヒビが入った音が聞こえたような気がした。



 そしてつかさは消え入るような声で囁いた。



「……おはよう………、……アスカ君………」



 体が一瞬震えた、だけどそれだけだった。

 それ以外は何も起こらなかった。時は普通に進んでいく。

 だからつかさは歩いていき、そしてオレは動けるはずなのにそれが出来なかった。





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