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「お兄ちゃん、おかえりなさーい」

「あ、ああ…ただいま………」

 わざわざ晩御飯の用意を止めてまで出迎えにきてくれたゆたかに、硬いながらも言葉を返せた事によく出来たものだと我ながら思う。

 それだけ今のオレの頭はショックでグチャグチャだった。

 哀しいとか、悔しいとか、情けないとか、そういう感情とは似ているけどまた違う。

 強いてあげるなら、あの子が亡くなった時の感情に近い。



 ああ、そうだ、思い出した



 喪失感ってヤツだ、これは





「あ、あの、お兄ちゃん、今日のお夕食なんだけど………」

 オレの様子から只事ではないと察したゆたか、おずおずと尋ねてくる。

 出切る事なら料理当番であるゆたかに、晩飯の料理のリクエストの一つもしたいところだけど、申し訳ないけどそんな気分じゃなかった。

「悪いゆたか、オレ後で食べるから、オレの分残しといてくれ」

 それでも今の自分が出せる最大限の笑顔をゆたかに振りまき、オレは部屋に戻る。





『いや、こないで………』



 蘇る光景、この世界では久しく忘れていた、トラウマというのが出来上がる感覚。



「クソーッ!!!」

 乱暴にドアを開け、そして振り払うかのように、部屋のドアを閉める。



 あの時のつかさの顔を見た事がある。

 いや、正確に言うとあの時のつかさの瞳の色にだ

 それは兵器越しから見た逃げる敵兵士、それと同じ色

 恐怖と怯えの色



「オレは何してるんだよ!?」

 勢い余って机を叩く。

 鈍い痺れる痛さがこれは現実だと思い知らしめてくる。



 つかさとあの兵士達とでは同じあって全く違う。

 つかさは守るべき存在だ

 それなのにオレは敵の兵士と同じくそのつかさに、恐怖と怯えを抱かせてしまった

 それはオレ自身で大切なものを壊したという事を意味していた。





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