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 お姉ちゃんとの二人だけの帰り道。

 こなちゃんやゆきちゃん、それにあの人もいなくて少し寂しいけど変わりに二人だけの秘密の会話。

 もちろん話す内容はあの人のこと。



「そうなんだよ〜一緒のグループになれてねー」

「いいわよねーあんた達は。私はそもそも同じクラスじゃないしそんな機会もないのよ、っていうか、あんた運良すぎ」

 お姉ちゃんは羨ましがってるみたいだけど、わたしからしたらお姉ちゃんのほうが羨ましいんだけどな〜…って、いけない、いけない

 お姉ちゃんがあの人にどう思われているのか、それは今までお姉ちゃんが頑張ってきたって証なんだもんね

 わたしはわたし! ……なんだよね………



「おい待てよ!」

 突然、通り過ぎた違う学校の男子にわたしたちは呼び止められた。



「今、そっちのやつ、ぶつかっただろ?」

 男子学生の一人が指差した先にはわたししかいない、となると…やっぱりわたし、だよね………。

「ああ、おれもみたぜ、お詫びしてもらわないとな〜」

 男子学生の友達の数人がそれぞれ頷く。

「えっ、あっ………、ご、ごめんなさい!!」

 わたしは慌てて当たった男子学生に頭を下げて謝ったの。

 でも男子学生たちは笑って肩を竦めるだけだった。



「だれが謝れっていったよ? そういう意味じゃなくてだなぁぁぁぁ! ……いてっ!?」

 わたしを掴もうと伸ばされた男子学生の手は、お姉ちゃんの鞄によってはたかれる。

「汚い手でつかさに触らないでよ!!! どう見たってそっちのいちゃもんでしょ!?」

 私を守るため男子学生たちの前に立ちはだかったお姉ちゃんの一喝に、

男子学生たちは驚いたみたいだったけど、すぐに顔にさっきまでの笑みが浮かんだ。



「おい、おい、気が強いな」

「おれはこっちのが好みだな〜」

「ああ、それにかなり顔もイイじゃん」

 男子学生たちはお姉ちゃんに近づいていく。そして一人の男子学生がお姉ちゃんの腕を掴む。

「ちょっと、放しなさいよ!!!」

 助けを呼ぼうにも、まわりの人たちは遠巻きに歩き去っていく。

 もしわたしがその人たちでも、きっと知らんぷりしちゃってると思う………

 でも今はお姉ちゃんが危ない目にあってるから、なんとかしないと………



「お姉ちゃん!!!」

「うるせえ!」

 わたしはお姉ちゃんを掴んでいる腕に組みつくものの、後ろから襟を捕まれて腕から引き剥がされる。

「つかさ!!!」



 悪いことにわたしは力も運動神経もないから、踏ん張ることができずに、数歩たたらを踏んで、後ろ側にバランスを崩す。

 そこからはまるでスローモーション、徐々に視界が空だけになっていく。

 少し遠くでお姉ちゃんが泣きそうな顔で必死にわたしに手を伸してる。



 またお姉ちゃんに迷惑かけちゃった…このまま頭打ったら、きっとものすごく痛いよね…いやだな………



 そんなことを考えていたわたしの頭になにかが当たる。

 それはわたしが思ってたより、全然硬くなかった。

 というより、当たった感じじゃない、優しく受け止められた。

 こうまでされたらわたしでもわかる、わたしは助けられたことに。そしてこんなことをしてくれる人が誰なのかも。

「シンちゃん!!!」

 わかってはいるけど、ついついわたしはあの人の名を呼んでいた。



「シンちゃん、シンちゃん!!」

 あの人は騒ぐわたしを迷惑がる様子もなく、冷静にわたしを立ち上がらせると、小さく、短く呟いた。



「つかさ、ここにいとけ」



 えっ?

 思わずわたしは、通り過ぎていくあの人のほうを振り返ったの。

 だってそれは、わたしがいままでに聞いたことがない、低く、怖い声だったから。



 ちがう、なにかが



 わたしはあの人の背中からそんなことを感じていた。





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