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予約した時間に少し遅れで、オレ達はレストランに着いた。
さすが都内で有数のところだけあってウェイターも迷惑がる様子も見せず、優雅な立ち振る舞いでオレ達を席に誘っていく。
「シ、シンちゃん、こ、こんなところわたし初めてだよー」
少し緊張した面持ちでつかさは周りをキョロキョロと見渡す。
「な、なーに大丈夫だ、堂々としてろ」
もっともらしい事を言ったものの、オレも緊張しておりこれはほぼ虚勢に近い。
それも当然だ。なんせこれからここで人生の大1番に挑むんだからな。
『乾杯』
料理が届きオレとつかさ、2つのグラスが上品に音を立てる。
正直ワインの銘柄なんてオレには分からないから、ここはつかさのチョイス。
そして出てきたワインはつかさの好みっぽく酸味よりも甘みが強いワイン。
果たしてこれを知っていたのか、偶然か
「すご〜い、おいしい! ソースの隠し味はなんだろう?
フルーツ……甘くて…量は………」
「気に入ってくれて何よりだ」
「あっ、ご、ごめんね」
自分の世界に入り、味の分析を始めていたつかさが恥ずかしそうに頭を下げる。
オレは気にしてないという意味を手で伝える。
実際つかさが喜んでくれればこれに勝るものはないし、料理の事を考えてる時のつかさは輝いてる。
そんなつかさを見るのは俺は大好きだった。
それにしても
「つかさ、慣れてるな」
さっきからつかさの食べる様子を観察しているが、ナイフ、フォークの使い方、グラスの持ち方、
テーブルマナーといったものまで昨日一夜漬けで読んでいた本に、載ってたお手本の動きそのものだった。
「えへへ、わたしは料理の勉強してるんだよ。これくらいはできないとね」
「ああ〜なるほど。……でも」
珍しく自信満々様子のつかさにオレは自分のナプキンで、口についてるソースをソッと拭ってやる。
「つかさはつかさだな」
「あ、あれ?」
そんなつかさの様子にオレは少し肩を揺らして声もなく笑った。