「みゆきさん」

「はい、なんでしょうか?」

 朝、教室に入ってくるなりあの方が私の方に近寄ってこられます。

 そしてあの方は聞き耳を立てようとする泉さんを追い払い、小声で話されます。

「放課後、空いてるか?」



 つ、つ、ついに、ついに、来ました!!

 あの方が私の為にプレゼントを探しておられるという話を聞いて、

ここ数日平静を保つことにどれだけ苦心したことか、どれだけ多くの電柱にぶつかったことか

 そしてそれがついに報われる時を今迎えようとしています。



「どうなんだ? 空いてるのか?」

 なかなか返事をしない私に対して、あの方が顔を近付けてこられます。

 こんなにあの方と距離が近いなんて事はそうそうあるものではありません。

 もうこれが誕生日プレゼントと言われても私は満足してしまいそうです。



「どうなんだ?」

「は、はい、空いてます!」

「そっか」

 私の答えを聞くと、あの方は首を引っ込めます。

 ……もう少しだけ、答えを出すのを引っ張れたのではないでしょうか………



「渡したいものがあるんだ、楽しみに待ってろよ」

 あの方はそう言って笑われます。

 その笑顔は最近になって見ることが多くなった子供の様な無邪気な笑み。

 それは似合い過ぎるほど似合ってるもので、普段のどこか影のある時よりも自然なものです。

 それなのにそれが常時見れないのは、いかにあの方の心が傷ついてるかの証拠といえます。



「なんでしょうか? 楽しみにしてますね」

 だから、ここでトボけるのが私の選んだ答えです。

 せっかく私なんかの為にあの方がここまでして下さっているのです。冷や水を掛ける必要は全くないのです。

 それに楽しみなのは本当です

 私は子供の様にまだ見ぬ、あの方からのプレゼントにワクワクしていますから

 嘘も方便

 半分本当



 放課後が凄く楽しみです





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