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「『どうして『さん』付けで呼ぶのですか?』か………」
放課後、卒業式の準備をしながら、オレは彼女からの昼間の質問の答えをぼんやりと考えていた。
「……やっぱ、気付いたらだよな〜」
誰にともなくオレはそう呟く。
恐らくだが、彼女を『みゆきさん』と呼ぶようになったのは、
こなたに彼女を紹介された時にその呼び方で呼んだのが原因だろう。
その時はオレもあだ名みたいなものだろう、と今まで気にせず『みゆきさん』と呼んでいたけど、
どうやら昼間の様子から判断するに、そう呼ばれるのをあんまり望んではいないらしい。
けど1回定着した呼び方を替えるのは難しいし、代わりになんて呼んでいいのかも分かんないしな〜
「よーし、今日はこんなもんでいいだろ。もう暗いし気をつけて帰るようにー」
そんなことを考えていると現場責任者の桜庭先生が今日の終了を宣言していた。
「お疲れ様です。お陰で助かりました」
「いや、そっちこそお疲れ」
帰り支度をしながらオレ達は互いに労いの言葉をかける。
「もうこんな時間ですね…急いで帰らないと………」
彼女の言葉に時計を見ると、19時を少し回っており、空はすっかり暗くなっていた。
「……あら?」
「どうしたんだ? みゆきさ…ん」
携帯電話に呟く彼女に、オレはぎこちない呼び方で尋ねる…やっぱいきなりは替えれないな………。
「迎えに来てもらおうと思ったのですが、話中でして…恐らく、母が長電話してるのかと………」
オレの脳裏にゆかりさんがセールスマンと電話でにこやかに話しているのが浮かんだ。
「まああの人ならありうるな…で、どうするんだ?」
「仕方ありません、一人で帰ることにします。まだそんな遅い時間ではありませんし………」
「1人でか…よし! オレが家まで送るよ」
「い、いえ、そんな…シンさんにそんな事をして頂いては………」
「さすがに昼間にあんな話を聞いて1人で帰らせるわけには行かないだろ! みゆきさ…んに、もし何かあったらこなた達が心配するだろ」
渋る彼女にオレは彼女の親友の名前を出して説得する。
「……は、はい。ではよろしくお願いします」
少し考えて彼女は90度近くまで頭を下げた。