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電車に揺られながら私は考えていました。
今日は上手く言ったといえるのでしょうか? と。
確かに今あの方は私を家まで送って下さっていますが、先程のあの方の言葉からすると、
やはりこれは泉さん達のためなのでしょうか………。
それに昼間の私の失言であの方は、私の名前すら呼ぶ事が少なくなってしまいました
…これが泉さんがよく口になさる『フラグブレイク』、というのが分かった気がします………。
そして私は隣に立っておられるあの方に視線を移します。あの方はそんな私の様子に気付く事もなく、
壁に貼ってある脳内トレーニングを頑張って解いておられます。
私はあの方に気付かれないように視線を正面の窓の外に戻しました。
さわっ
「あっ………!?」
き、気のせいでしょうか!?今、お尻を触られた気が――
さわっ
き、気のせいなんかではありません! …こ、これはち、痴漢………!!!
「あっ…うっ………」
振りほどこうにも体が動きません…あの方に助けてもらおうにも声が出ません………。
痴漢は私が何も出来ないことが分かると、胸を触ろうと手を近づけてきます。
いやっ! 助け――
「うがっ!!!」
次の瞬間に声を出したのは痴漢の方でした。
痴漢の手を捻っていたのは――
「アンタ、みゆきに何してるんだ!?」
「本当にごめん…オレがいながらみすみす痴漢にみゆきを触らせてしまうなんて………」
痴漢を駅員の方に引き渡し、私の最寄りの駅を降りた瞬間にあの方は90度以上に頭を下げられてこられました。
「そ、そんな! 頭を上げて下さい! シンさんに感謝こそすれ怒ってなんかいません!」
「いや、そう言われても………」
「それに…私は嬉しいんです」
「嬉しい?」
怪訝そうに私を見るあの方に私は笑顔で答えます。
「はい。私の危険にシンさんはきちんと助けてくださいました。それと………」
「……それと?」
「シンさんが私を名前で呼んで下さったことが」
「そんなのが嬉しいのか?」
「はい! それが一番嬉しいです。これからもその呼び方でお願いできますか?」
「え、ああ…き、気付いたらそうする………」
「はい! 気付いたらで結構です」
あの方は照れておられるのか、私に背を向けて小さく、でも
「家までもう少しだよな? 今度は守るから…みゆきを」
はっきりとそう言ってくださいました。
「はい! よろしくお願いします!」
〜 f i n 〜