予定よりも講義は早く終わりました。

 かといって私にはこれを喜ぶ理由は今日は何もありません。



 キーンコーン キーンコーン



 敷地内で私は講義時間の終了ベルを聞きます。

 前方の図書館からそれが聞こえてくるのですから、ベルが私を足止めしているように、重く感じます。



 ♪ これ以上〜♪

 下を向いたと同時に、あの方のメールが来ました。



『講義終わった? 今ドコ?』

『図書館前です』



『分かった。今そっちに行く』

 ぱたん

 私は携帯をしまい、近くのベンチに腰掛けます。

 バイトがあると仰られていたのに、まだ大学にいるのはきっと私の態度が原因でしょう。

 悪いのは私なのに、それでも心ではまだ期待してしまっています。

 傷つくのも、傷つかせるのも嫌だというのに



「いたいた」

「あの、シンさん…バイトでは?」

 図書館から出てきて近付いてくるシンさんに、私の方からも向かって声を掛けます。

「ああ、もう行かなきゃヤバイ」

「そうですか………」

 分かってはいるのに、視線をシンさんから下の方へと下がってしまいます。

 ここで気を遣わせては

 私は笑顔を作り、顔を上げようとしました。



「で、でもすぐに終わるから! 4時間くらいで!」

「は、はぁ………」

 話し出すシンさんに、私は張り付いた笑顔で呆然と見ます。

 どうしてそんなに慌てておられるのでしょう?



「だから、帰るなよ! 誕生日だろ!?」

「あっ、は、はい………」

 言葉に詰まったのは、嬉しかったからという単純な理由からです。



 私と一緒に今日、側にいてくれる



 それだけで涙腺が緩んできてしまいます

 でもここで泣いたらまたシンさんに、気を遣わせてしまいます。

 だから私は眼鏡を上げる振りをして涙を拭きます。

 そして勝手に浮かんでくる笑顔。これは拭う必要がありません。





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