「分かりました、それではお待ちしていますね」

「で、でもただ待ってるだけだと寒いだろ!?」

「いえ、外で待ってるわけではないので………」

「す、することもないだろ!?」

「あっ、図書館で時間を潰しますから大丈夫ですよ」

「ううぉぉ………」

 なぜか両手で頭をがっちり抱え込み悶えるシンさん。

 また私は何かまずいことをしてしまったのでしょうか?



「ほ、ほら、オレの家近いからさ」

「そうですね、ですがシンさんはこれからアルバイトでは?」

「だ、だから………」

「だから?」

「あー手を出せ、手を!!」

「は、はい!」

 いきなりの大声に驚きつつも私は両手を前に出します。

 そしてシンさんは手をズボンのポケットに乱暴に突っ込みます。



「ほら!」

 そして私の手に置かれた物は鍵でした。

「合い鍵だよ! 持ってたら色々と便利だろ!?」

「……えっとシンさんの家のですか?」

「他に何があるんだよ?」

「バイクではなく?」

「持ってないだろ? 2輪の免許」

 ということは、これで私はシンさんの家に自由に出入りすることができるという―――

「ええー!?」

「うをっ!?」

 驚いた拍子に放り投げてしまった鍵をシンさんが慌てて掴みます。



「びっくりしたー」

「す、すみません………。ですが、よろしいのですか?」

「当たり前だろ、付き合ってるんだから

 というか遅いくらいだと思うけどな、オレは!」

 ご自身の瞳よりも赤くなられているシンさん、そしてそれよりも赤くなっている私。

 恋人としてもう一段階進んだ関係になったのですから当然です。

 さっきまでの憂いは本当にどこへやらです。



「言っとくけど、誕生日のプレゼントはこんな500円程度のもんじゃないからな!」

「はい」

「……受け取ってくれるか?」

 シンさんの問いに私は両手を差し出します。

 そして鍵が少しだけ私の手で踊ります。



 ちゃりん



 本当は聞こえないはずなのに、私は確かに祝いのベルの音が耳に届きました。





〜 F i n 〜   






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