「みゆきワルイ、さっきのノートを貸してくれ」

 抗議が終わるなり両手を合わせてそう切り出してきたのは、私がお付き合いしている方シンさんです。

 シンさんは忘れ物をしません。ただ、時々今みたいにノートを取られるのを忘れてしまいます。

 持ってきているだけでは意味がないと思いますが、シンさんの方にも事情があるのでしょう………。

「どうぞ」

「サンキュ」

 恐らく内容の方は理解しておられたのでしょう。

 シンさんはノートを一読すると、尋ねることもなく鞄にしまわれます。



「みゆき、それと今日なんだけど」

「はい、次の抗議の後いつもの場所ですね」

「あっ、いや、その………」

「……アルバイトですか?」

 私の言葉にシンさんは小さく頷かれます。

 そんな顔をされては文句の一つも言えません。

 シンさんは生活のためにアルバイトをしておられるのですから………



「分かりました、それでは」

「あっ、ち、ちょっと待て」

「すみません、次の抗議は遠いので

 何かあればメールでお願いします」

 急いでいるということは本当でした、ただシンさんにきつく当たったように見えるかもしれません。

 そんな気持ちがあった、それは否定できません。



 誕生日に想いの人が一緒にいてくれる

 それは物語だけのことと分かってはいるつもりです。

 人には人の事情があるのですから



 タッタッタッタッタ タッタ タッタ

 最初の角を曲がると、私は速度を緩めます。



 ですがお恥ずかしながら、私はまだそこまで大人になりきれていません





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