「ですが、シンさんは力の変わりに新しいものを手に入れたと思います」

「新しいもの?」

「確かに出会ったシンさんはもの凄く強かったと思います、力だけでなく心も、その時のシンさんも確かに魅力で素敵な方でした

 ですが、今こうして私と並んで歩いて、笑ってくださるシンさんの方が私はもっと好きです」

 そうして愛おしそうにぬいぐるみを抱きしめるみゆき。

 付き合ってから何度も見た笑顔、何度でも見たい顔。

 力がある時は決して見つからなかったもの、それが今、オレの前にある



 結局両方を手に入れるのは高望みだって言う事なんだろうか



 だったら、オレは………



「凄い人ですねー」

 みゆきの驚きの声に、握った拳をそのままにオレは顔を上げる。



 確かにみゆきの言った通り、さっきよりももっと人が増えている。

 どうやら、歩いている内にメインイベントである花火の見えるところに近付いてきてしまったらしい。

 今までみたいに歩いていると確実にハグレるのは決定的だ



「みゆき、オレの手を………」

 オレはみゆきのいた方に手を伸ばすが、空を掴むばかり。

 慌てて振り向くとそこには、人の波、みゆきの姿はどこにもなかった。





「なっ! ………」

 思わぬ事態にオレは絶句する。

 ついさっきまでそこにみゆきはいたんだ、それが一瞬目を逸らしただけなのに………

「なんでいないんだよ!?」

 突然の大声に何人かの人がこっちを見てくるが、そんなのはどうでもいい

 みゆきとはぐれたこれが1番問題なんだ



「チッ」



 この舌打ちは自分に対して



 穏やかな日常はちょっとした時間が有ればすぐに壊れる



 それを知ってるはずなのに

 経験したはずなのに

 なんで油断したんだ!



「みゆきー!」



 だけど今はそんなのんびりと後悔している場合じゃない

 やる事は決まってるんだ!



「みゆきー! どこだー!?」



 オレは人の流れに逆行して、みゆきを探し始めた。





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