「すみません、お手数をおかけしました………」

 私は昼間の場所に戻ると、あの方に頭を下げました。

 あの後あの方は私の元に登られ、片手で私を担いで木を下りられました。

 その時私は腰に手をまわせられてドキッとしましたが、あの方の目を見るとそんな浮ついた感情もどこかに飛んでいってしまいました。

 あの方の目はとても真剣で、私を助けるという強い意志が感じられました。

 先程の事だってそうです、あの方は私を助けてくださったのに私は酷い事をしてしまいました。

 それこそ『パルマ』は初めての経験でもないのに

(念のためですが、あの方は私達を助けようとして不可抗力でしてしまわれるのであって

決してやましい気持ちでやっておられているのではないことを私が保証します)、

いくら動揺していたととはいえ、あの態度はありません………。





「だからみゆきは悪くないって」

「いえ、ですが………」

「悪いのはオレだ、またみゆきを守れなかった」

「そんな事はありません!! シンさんがおられなかったら、私は大怪我をしていました!!! だからシンさんは悪くありません!!」

「……みゆき……よし! じゃあ最後にお互い謝ってこれで終わりだ」

 私はこの提案に意外な感じがしました。あの方は私達を『守る』ということを大事にしておられ、

少しでもそれが出来ていないと感じられるとショックを受けられます。



「みゆき、ごめん。今度守るときは変なとこ触らないように守るから」

 ですが今のあの方は『守る』という使命感より、『守る』という充実感が感じられます。

 やはりこれは『ミスコン』の時のかがみさんと何らかの事があったからなのでしょう。

 あの方が一つの壁を乗り越えたのは嬉しい反面、かがみさんに嫉妬している自分がいます。

 いけません、私は私、かがみさんはかがみさん、私なりのやり方があるのです。

 ですから………。



「では私も、シンさん助けていただいてありがとうございました」

「おいおい、謝るはずなのにお礼を言うのは…その、ずるいぞ………」

 そう言うとあの方は鼻をかきながら、明後日のほうを向かれます。

 いつもは凛々しいのに照れてるあの方は可愛いです。



 ごーん



 悦に入ってる私に遠くの方でお寺の鐘が聞こえます。



 …………。



「……みゆき、今何時だ?」

 私と同じく思い当たる節があったのでしょう、あの方が携帯を覗く私に聞いてこられます。

「……はい、今5時になりました………」

 遠くで鐘の音が響いていました。





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