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登山は順調に進んだ。
そんなに勾配の多い山でもないし、みゆきの運動神経も体力も平均以上にあるため、
オレ達は予想以上に早く昼ご飯を食べる予定の場所に着いた。
「いい眺めですね〜」
「ああ」
オレは食後のお茶を飲みながら、みゆきの言葉に頷く。
今オレ達がいる場所は頂上ではないが、見晴らしが良く、辺りが一望出来た。
この世界とオレのいた世界。機械技術ではオレのいた世界が勝ってるが、自然はこの世界の方がはるかに多い。
それに何よりこの世界は平和だ。確かにこの世界でも戦争はあるが、それが世界全体で行われていない。
特にこの国では半世紀ほど、戦争が起きていないらしい。
だからこんなにも人は優しく笑えるのかもしれないな。
オレはチラリと隣の少女を見る。
みゆきは会った時からそうだ、出会った頃のオレは人の好意を踏みにじるようなヤツだったのに、ずっと笑顔で接してくれた。
だからオレは恩返しというわけではないが、みゆきの力になりたかった。
こんな事思ってるから、オレの過去を知ってるこなたやかがみには考え方に余裕がないと言われるのかもしれない。
「シンさん、あっちの方が眺めが良さそうですよ」
気付くとみゆきが立って、すぐ先を指差していた。
「ああ、時間はまだまだあるしな」
頷くとオレは荷物をそのままに立ち上がると、みゆきはオレの手を握り走り始める。
「みゆき、テンション高いな〜」
「はい! 私は住んでるところは都内ですから自然がなかなか見られないので…!! す、すみません!!」
みゆきは目的地に着くと同時にオレに謝る。
「いや、いいって。みゆきの別の面が見られたしな」
「い、いえ、そうではなくて、手を、その………」
何やら急に顔を赤くしてモジモジしだすみゆき。
「手? 別に痛くなかったぞ? そんな事より景色を見ようぜ」
「は、はい………」
みゆきはガッカリしたような、ホッとしたような顔をしていたが、景色を見るとそれは一変した。
子供がおもちゃを与えられたときにする目、今のみゆきはそんな目だ。
みゆきのそんな無邪気な様子を微笑ましく思ってしまい、オレは周りを特に注意していなかった。
みゆきの一歩先からは下りになっていて、そして―――
「きゃっ!?」
みゆきは何も分からず踏み出してしまい、バランスを崩す。
「みゆき!!」
オレはみゆきを助けるために後ろから支えようとする。
その時手に感じる、やわらかな温もり。
……そう、オレの暴走スキル『パルマ』が発動してしまったのだ………。