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「ようやく着いた〜」
あの方が元気ない声でそう言われたのは、バスを降りて山のふもとについた時です。
「まだ登っていませんけど………」
「なんかここまで来るだけで目的をやり遂げた感じだ」
あの方の大げさな身振りに私は小さく笑います。
確かに私としてもあの方とこんなに遠くまで来るのは、一つの目的を終えた感じがします。
「おいみゆき」
「はい?」
いつの間にか、あの方はバス停の時刻表を見ており、私を手招きします。
「五時が最終便ですか………」
距離的にもここから歩いて駅まで戻るのは、あの方はともかく私には不可能です。
ですから、それまでに下山をしなければいけません。
「地図で見た限りだとそんなに高くないし、その親戚の家の場所は分かるんだろ?」
「はい」
「じゃあ大丈夫だな。だけど油断はするなよ」
そう言ったあの方の顔は、先ほどまでとは打って変わって凛々しい顔つきになられてます。
いつもの柔らかい顔も良いのですが…そ、その、なんと言いましょうか…か、格好良いです………。
「みゆき、聞いてるか?」
心配そうにあの方が私を覗き込んでこられます。
「シ、シ、シ、シンさんーっ!!!」
か、か、か、か、顔が、顔がち、近いです!!!
「だ、だ、大丈夫です!!! さ、さ、さ、さあ、い、い、い、行きましょう!!!」
「お、おい待てよ!」
私は顔が赤くなっているのを気付かれないように、先に山を登り始めました。