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「シンさん」
「当たり」
一瞬、答えてくれないかとも思ったがそんな事はなく、みゆきは答えてくれた。
この広い大学で会えたのは、初詣に行った親友の家の神社のお陰だろうか。
だとしたら異世界の神様というのもなかなかに信用できる
「なんの用ですか?」
ただやはり昨日の一件を怒っているらしく、表情も声もは硬い。
「話がある。というかオレの話を聞いてくれ」
この話も今のみゆきの表情をただ曇らせるだけの結果になるだろう。
ただこの事は話しておかなきゃいけない事だ
「まずは、みゆきに就職の事について何も言わなかったのは謝る、この通りだ」
大学のカフェの一角、お互いに飲み物が届いたところでオレが頭を下げる。
「いえ、こちらも昨日はお見苦しいところをお見せいたしました
……いつから決めておられたのですか?」
「大学に入る時からだ。
オレは医者にはならないってな」
「何故医者にならないのですか? だったらなぜ医学部に? それにどうして私と同じ大学に入ったのですか?」
次々と質問してくるみゆきだが、当然の疑問だろう。
これだとまるでオレはみゆきと一緒にいたいが為にこの大学に入ったと思うだろう。
勿論それもある。だけどオレはオレなりの考えがあってこの大学に入った。
そして医者にならない理由もある。
「怖いんだよ、人の死が」
「えっ?」
「医者ってのは、人を殺す可能性もある。
それが医療ミスとかじゃなくて結果的に寿命であっても」
「そ、それは………」
「別にそれで医者を否定する気はない。現に救える命があるんだから
ただな、家族を失った人をオレは見る勇気がない」
「あっ………!」
この世界に来てみゆき達に出会い、オレ自身良かったと思ってる。
色々な事が知れたし、大切な人も愛しい人も出来た。
ただその反面、オレは元にいた世界よりも『死』というものに敏感になってしまった。
これが弱くなったとは思ってないが弱点であるとは認める。
「人を殺しまくったオレがな」
「そ、そんな…止めてください」
「わるい」
自嘲の笑みはみゆきの泣きそうな顔を見てすぐに引っ込ませる。
これ以上言えばみゆきにつらい思いをさせるだけだから。
「そんな理由があったのですか………」
「最初に言おうと思ったんだけど、ついな」
今なら医者という職業の重さも分かってるからまだしも、大学に入ったばかりの夢を膨らませてる時期にいきなり、
そんな事を言ってはみゆきが夢を諦めるかもしれないという不安から中々言い出す事が出来ないでいた。
ただそれは自分の弱点を教えたくなかっただけの、理論武装だったのかもしれない。
「それならば仕方ありませんね」
みゆきはそう言って優しく笑う。
オレを責める事も、弱点も突く事なく。
「私の方こそその様な事に気付かず、配慮が足りませんでした」
ペコリ、と頭を下げるみゆき。
その様子には卑屈さは全く感じられない。
かといって悲壮さも全くない。
ただ自分の力不足を反省しているだけだ。
こいつは聖人君主かー!?