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ピーンポーン
ピーンポーン
けたたましく玄関のチャイムが鳴る。
「うるさいな〜」
今日は講義もなく惰眠を貪ってるオレには騒がしすぎる目覚ましだ。
だいたい部屋が1LDにこの音は大きすぎる。
そもそも誰だ? チャイムを2回も3回も鳴らすのは?
「あ〜悪いけど、神とか信じてないんで………」
「シンさん!」
オレの予想とは違いドアの前に立っていたのは、異世界の神の使者などではなく、オレの女神こと高良みゆきその人だった。
「どういう事ですか!?」
しかしいつも微笑みをたたえているオレの女神は、阿修羅のような顔で靴を脱ぎ捨て部屋に入ってくる。
「ど、どういうって、なんの事だよ?」
こういう場面普通なら浮気がバレたってところだろうが、オレは生憎みゆきしか眼中にない。
「教授に聞きました!!」
「うっ………」
オレは思わずみゆきから目を逸らす。
何を言ったかまでは知らないが、みゆきがこんなに腹を立てているという事はどうせろくでも無い事を言ったに違いない。
「シンさん! 医者にならないってどういう事ですか!?」
「い、いや、べ、別に隠すつもりじゃなかったんだ」
言いにくかっただけ、とはとても言えない。
今そんな事を言えば辞世の句すら言わしてもらえず、亡き家族に会う事になるだろう。
「じゃあ、どういうつもりなんですか!?」
みゆきにしては声を大きくして、問い詰めてくる。
みゆきからしたらオレも医者を目指してるものと思っていたのだから、寝耳に水の出来事なのだろう。
「いや、そ、その、タイミン―――」
「言い訳は聞きたくありません!!」
「は、はい!」
みゆきの言葉に思わず気をつけの姿勢を取る。
オレは今まで生きてきた中でこれほどまでにビビッた事はない。
「……本当なんですか?」
顔を少しうつむけて、小さな声で聞いてくるみゆき。
レンズの下にある瞳は光の反射で見えない。
「……ああ」
頷く、否定はしない。
本当の事だから
「そうですか………」
それだけ言うとみゆきはくるりと背を向けて玄関の方に向っていく。
「ま、待て! みゆき!」
「……あなたの事が分かりません」
オレの制止にみゆきはそれだけ言うと歩いていく。
その背中には言外に付いてくるな、と言っていた。