『違う道』





 現在、一世紀に一度の大不況と言われています。

 その中で私が主属する医学部は医者を始めとした医療系が慢性的に人材不足の為、まだ他学部の大学生よりも就職率は高いです。

 ですが、それでも例年よりも厳しいと言わざるをえません。

 そして私も春から四年生となる為、そろそろ就職活動に本腰を入れなくてはなりません。



「あ〜高良君」

 私がキャンパス内を一人で歩いていると、声を掛けられます。

「おはようございます」

「うむ。君の噂は学部内で毎回持ちきりだよ

 成績優秀、品行方正、容姿端麗、君ならどこの医局にも入りたい放題。不況知らずとな」

「ありがとうございます」

 そこまで教授の方に持ち上げられると逆に居心地が悪い気がしますが、就職に不安な心が少し軽くなります。



「ところで君はアスカ君とは懇意の仲だね?」

「は、はい、お恥ずかしながら、親しくさせて頂いております」

「はっはっはっはっ、照れなくてもよろしい。君達二人は、お似合いだよ

 まあ、彼は品行方正とは言えんがな」

 私の恋人のシンさんは出会われた時からそうなのですが、真っ直ぐなお方です。

 長所と短所は裏表と言いますから、その性格の為周りの人と衝突する事も少なくありません。

 目の前の教授はシンさんの担当講師でもおられるので色々と大変なのでしょう。

 ですがこんな日常の会話をするために、わざわざ違うゼミ生である私に声をお掛けになったのでしょうか?



「いや、実はな」

 教授も私の考えてる事に気付かれたのか、突如声を落とされます。

「アスカ君の事で君に頼みがあるんだよ」



「――――!」

 教授のお話された事は私が驚くべき事でした。





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