「もう一つ、やりたいことがありまして」

「なんだよ?」

 今度はボロを出さないように用心。



「目的地までバスで行ってみたいです」

「バスを貸し切るのか?」

「いえ、そういうことではなく、その夜行バスと言われるものに乗ってみたいと………」

「どうしてまた………?」

「夜遅く見ていましたローカル局の再放送番組で、サイコロ夜行バスの旅というのを………」

「ああ、あれね………」

 該当する番組に心当たり。

 確かにあれは面白い、見てるだけなら。



「いいもんじゃないって」

「えっ?」

「……本当にそんないい乗り物じゃない」

 自転車からMSまで乗ったことがある者の心からの感想。

「そ、そうなんですか………?」

「そう」

 圧倒されて何度も頷く彼女。



「ところでいつそんなものをお乗りに?」

「少し前に白石と」

「はい」

「日帰り強行軍で京都に」

「理由は? 何か目的があってですか?」

「思いつきだろ」

「それは楽しそうですね」

 凄いのは嫌味がないこと。

 瞳に映る、純粋な羨望。



「……でしたら、旅行はもういいですね」

 愉快そうな、寂しそうな、笑み。



「すみません、我儘言って」



 笑わせる



 そんなの全然ワガママなもんか!





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