やっぱり慣れないことはするもんじゃなかった

 キザったらしくみゆきに『モミジ』を渡す自分の姿が、再生→巻き戻し→再生の無限コンボで襲い掛かってくる。

 これは例え愛機であるデスティニーですらなぎ払うことは出来ないはずだ。



「シンさん」

 落ち続けるオレに手を差し伸べてくれたのは、いつもの如くみゆきだった。

 みゆきはオレの手を取り立ち上がらせる。



「『椛』だろうと『楓』だろうと、『銀杏』だろうと構いません

 シンさんが私にこの景色を見せて下さった、それが私は何よりも嬉しいです」



 ズルイよな

 こんなことを言われたら

 こんな風に微笑まれたら

 タダをこねられない

 潰されてばっかだけどオレにもプライドはある



「どうぞ」

 そしてみゆきは1枚の『モミジ』をオレに差し出す。

「今度一緒にしおりを作りましょう、おそろいですよ」

 小首を傾げるみゆきにオレは立ちくらみを覚える。



 ズル過ぎるだろ!



 ここが外じゃなかったら、みゆきを物凄く抱きしめてる自信がある

 というか今もその衝動を抑えるのに必死だ

 でも我慢しろオレ!



「そういえば」

 幸運にもみゆきが話題を変える口調になる。

 いや、みゆきのことだから、オレの考えを読んでるかもしれない。



「『楓』の天ぷらというのがあるそうですね」

「へ、へー」

 オレは地面に落ちてる『モミジ』を、空いてる手で拾い



 なんとなく



 口に入れた



「シ、シンさん!?」



 味はもちろん



「うぇぇぇー!!!」

 この上なく不味かった



「な、何をしてるんですか!?」

「いや、軍でマズイ飯は慣れてるからイケると思ったんだけど………、もう無理だな………」

 肩をすくめて答えると



「当たり前です」

 みゆきが笑う



 そしてそれを見て



「だな」

 オレも笑った





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