「実はこういう景色って苦手なんだよ」

 ひとしきり笑い終わるとシンさんはそう切り出されました。



「苦手、ですか?」

 アレルギーを持っている方ならともかく、こういう景色を苦手と言われる方はそうはいません。

 ですがシンさんが冗談で言っているわけではないというのは目を見たら分かります。



「妹のことを思い出す時は大概こういうところを走ってる場面なんだ」

「…………」

「まあ、死んだところじゃないのが救いなんだけどな」

「…………」

 シンさんの言葉に私が何も口を挟まなかったのは、シンさんがまだ何かをおっしゃられる風だったからと、

瞳が辛い過去を話す時とは違って穏やかだったからです。



「でもここを見つけた時に真っ先に思ったのは、みゆきに見せたい、だったんだよ」

「はい」

 少しでもシンさんが言い淀まれたら、私はこうも素直に頷くことは出来なかったでしょう



「それでこうやって普通に、この景色を楽しめた」

「はい」



 それが良かったのか、良くないのか、シンさんにしか分かりません

 分かるのはそんなシンさんに、私自身が出来ることだけです



「シンさん」

 私はシンさんの手を握ります



 想いは伝わるはずです



「帰るか」

 シンさんは私達二人の手を、御自身のジャンパーのポケットの中に突っ込みました。

 その暖かい中でシンさんは私の手を強く握られます。



 きっと伝わったはずです



「はい」



 私はずっとあなたの隣にいます





〜 F i n 〜   






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