見慣れた駅に降りる。

 といってもこの駅前の光景はほんの1ヶ月ぶりだ。

 最近は電車を使ってないから、ってのもあるんだろうけど、それでもやっぱりこの光景には戸惑う。

 自分があそこにもう住んでいないという事実に。





「シンさーん」

 改札を出ると、聞き慣れた声に呼び止められる。

 どうやら同じ電車に乗っていたらしい。

 止まって振り向き、手を振る。

 そこにいるのは少しウエーブのかかった長い桃色の髪に、優雅ででも決して嫌味ではない微笑みを浮べた、眼鏡の似合う知的美人。

「……お久しぶりです」

 そしてもう1人。髪はショート、涼やかな瞳と物静かな佇まい、

見た目はこれまた知的な少女だけど、その心の中には熱い優しさを持っている。

「ああ、そうだな」

 2人に会えて、俺は張り詰めていたものが解けた。





「一人暮らしはもう慣れましたか?」

「元々は1人で住んでたからな、それ程苦じゃないさ。

 ただ………」



 さみしいかな



 と口に出す前になんとか止める。



 オレ達3人が向っている泉家、そこにオレはつい2ヶ月前まで住んでいた。そしてこの春から大学の入学をきっかけに1人暮らしを始めた。

 一応その時は格好良い事を言って出ていったんだから、今更泣き言を言えない。





「そうですか、それは何よりです」

 みゆきはオレが言いよどんだ事に対して、ツッコミをする事無く、何時も通りの微笑みを浮べている。

 でも



 きっとオレがどう思ってるか分かってるんだろうな〜



 みゆきと今日の主役の1人こなた、そしてかがみ、つかさ。

 この4人にはオレは全く頭が上がらない。なんてたって心が読まれてるんだから。

 別に本当に読めるってわけじゃなく、なんとなく分かる、くらいなんだろうけど、こっちからしたら、隠し事が出来ないというのが痛い。

 ……まあ、それが嫌じゃないんだけどな。



「……シン先輩、それでケーキの方は?」

「ああ、バッチリ!」

 みなみの問いに両手で持っている箱を少し上げる。

 今回のこなた・ひよりの誕生日会のケーキはオレが選ぶ事になっていた。

 さんざん皆から、女心と空気が読めてない、と言われてるのにこの役に決まったのは不思議でしょうがない。

「なんてたって、つかさとゆたかそれにあやのにアドバイスを貰ったからな」

 オレの知ってる中ではいかにも女の子の1,2,3から聞いたんだからこれはもう間違いようがない。

「そこまでしなくてもシンさんの手作りで良かったと思いますよ?」

「みゆきにしては上手い冗談だな」

「……みゆきさんは冗談で言ってるんじゃないと思います」

 みなみの言葉に笑って頷くみゆき。



 ほらな、やっぱりオレは女心が分からないんだ。





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