勝負はついたな

 オレは目の前の子供の様子を見て確信する。

 初めてみるタイプの格闘技だし、腕もそんなに悪くない

 だけど………



 恐らくこの子供は人を殺した事がないんだろう

 オレも生身では経験がないが、MS越しに多くの血を浴びてきた

 オレとコイツとでは経験とそれに覚悟が違った

 とはいえ、殺気を向けてこない相手を手にかけるのはやはり気が引ける

 ここは情報を聞き出して、当て身でも喰らわすか



 がちゃ



 オレが方針を決めて動こうとした瞬間、旧式の手動ドアが開いた。

「ん? なんか緊迫した雰囲気だな〜」

 のんびりとした声で男が入ってくる。

「まあいいや。とりあえず二人とも座ってくれ、君には聞きたいことがあるからね」

 男の言葉にしばし考えてから、オレはその場に腰を下ろす。

 年配の男が来たということは、コイツはある程度この施設の重要人物と見ていいだろう。

 そんなヤツがなんの用意もなしに来るとは考えられない。恐らくはここはすでに見張られているはずだ

 そんな状況で抵抗しても無意味だ。ここはスキが出来るのを待つしかない

 そしてもう1つオレが男の言う事に従った理由があった。

 この男の雰囲気に毒気を抜かれたからだ





「君はシン・アスカだね?」

 オレの名前を尋ねる男にオレは否定も肯定もしなかった。

 恐らくオレの名前を知っていたのは軍証明書を見たのだろう

 あるいはすでにオレの顔はヤツらに知られていたのか、そういえば携帯していた拳銃とナイフも奪われている

 この男思ってた以上に喰えないヤツなのかもしれない

「捕虜には待遇が保証されてる! もっともアンタ達がそれを守るとは思えないけどな!!」

 そう、あの国の言う事は信用ならない…オレはそれを身を持って知っている………。



「……なんか、いきなりクライマックスだね………。どうするお父さん?」

 子供の方が男に困った顔で尋ねる。

 どうやら子供と男は親子らしい、そういえば雰囲気がどことなく似ている

「……うーん、そうだなー、君はここがどこか分かるかい?」

「脅しかよ? どこかは知らないがここはオーブの施設だろ?そしてアンタ達はオーブの軍人だろ!!」

 オレは男に向かって吼える。

 オレの答えに何やらヒソヒソ声で話し出す二人。

 クソッ! 言いたい事があるならはっきり言えよ!!



「ここは日本の埼玉県ってところだけど、聞いたことある?」

 子供の質問にオレは首を横に振る。

 この行動は駆け引きではなく本心から出たもの。

 オレの知っているあの国の地名にそんなところはない、もちろんプラントにもだ

「君が最後にいた場所はどこか覚えてる?」

「月だ」

 男の質問にオレは短く答える。

 そんなことは回収したコイツらが1番知っているはずなのに………

 さっきから意味のある質問とはとても思えない事が続く。

 何かの作戦か? こんな事なら、アカデミーの尋問についての筆記をもっとちゃんとやっとくべきだった



「……これは、やっぱりだねー………」

「事実は小説よりも奇なりとはよく言ったもんだ………」

「なんなんだよ!?」

「あ〜結論から言うとね…きみはC.E.世界からここの世界…つまり、違う世界から来たってこと!」

 子供の言葉にオレは反応が取れなかった。





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