光が収まって、わたしはゆっくりと目を開ける。

「なんだったんだろ、今の?………」

 言ってからわたしはテレビの前に何かがあるのに気付く。

 それは物ではなく、人の形をしていた。

 一目見て、ガンダム系統のパイロットスーツというのは分かったんだけど、なんの作品だったのかは浮かんでこない

 恐らくわたしの中でそんなに頭に残る作品ではなかったのだろう

 だいたいなぜいきなりパイロットスーツを着た人が我が家のリビングにいるのかも理解不能だし

 お父さんなら何か分かるかもしれないと思って、そっちの方を見ると、お父さんの方もだた目をパチクリさせながらこっちを見ていた。





「お父さんあれ何?」

 わたしとはお父さんに近づき小声で尋ねる。

「ザフトレッドだな」

 お父さんはもう一度だけ倒れている物体を見てから、やはり小声で答える。

 ああ、そうだ、ザフトのパイロットスーツだ

 言われたら分かる

 そして自分の中でなんで名前が出てこなかったかも理解した

 そこらへんの理由はちょっとここでは言えないけど………

 しかしさすがお父さん、ガンダムを使命感で見ていると言うだけはある



「問題はなんでザフトレッドが我が家のリビングにいるかということだ?」

「……新手の泥棒とか?」

「泥棒だったら気絶してるのはおかしくないか?」

「さっき光ったでしょ? あれは泥棒の用意したもので、それで自分のに驚いて気絶したんじゃない?」

「……随分間抜けな泥棒だな………」

「だって、ほら、ザフトって頭が………」

「わぉ〜相変わらず怖いもの知らずの発言するな〜………」

 とわたし達が色々と推測を並べてるのに、一向にザフトレッドは起きる気配がなかった。



「しかし、見れば見るほど精巧に出来てるな…それにさっきの光…こなたは感じなかったか?」

 さっきまでと打って変わり、真面目な口調で尋ねてくるお父さん。

「うん、なんか今まで感じたものがなかった感覚だったね。なんかがねじれたというか………」

「……ああ………」

 お父さんの頷きを最後にわたし達は黙ってしまう。

 突然起きた謎の光、その時感じた感覚、そしてその光とともにやってきたザフトレッド

 わたしの頭の中にある考えが過ぎる。それは二次元ならお決まりと言ってもいい出来事

 だけど現実にはそんなことが起きないことを、わたしは嫌でも知ってるし、お父さんはきっとそれ以上に理解してる

 どこかにいる冷静な自分が、わたし達二人の口を重くしているのだ

 

 でも、それでもやっぱり期待してしまう



「ねえお父さん! ヘルメットを取ってみよう!! 誰が来たのか気になるじゃん!!」



 期待は裏切られる

 発売日を楽しみにしているのに延期するゲーム、面白かったゲームの続編、

アニメ化されて想像してたのとは違う声、カットされるストーリーなどなど、いつだって裏切られてきた

 それなのにわたしは性懲りもなく期待している。



 なぜか?



 楽しいから。期待している時はそんなことを忘れるくらいにワクワクさせられる

 分かっているけど、止められない衝動

 別にそれで生きてるのを感じるとかそんな大層なものでもない

 ただ楽しいから、それで十分

「そうだな。こんなに経ってるのに目を覚まさないのはケガをしてるからかもしれないしな」

 お父さんの顔も嬉しそう。やっぱりわたし達は親子なんだと感じる瞬間だ。



 暴れられた時のことを考えてザフトレッドの体をお父さんが抑える。

 わたしは抑えるのを見てから、ヘルメットに手を伸ばす。

「ザフトレッドだし、お父さんはシホ・ハーネンフースがいいな〜」

 お父さんの妄想に、そんなキャラもいたな〜と思い出しながら、わたしはヘルメットを取る。

「こ、これは………」

「ふむ」

 その顔はさすがにわたしでも覚えているキャラだった。

 それはガンダムの主人公でもっとも波乱万丈な(色々な意味で)キャラと言ってもいい、そう、その名は………

「……シン、シン・アスカ………」



 これが全ての始まりだった





戻る   別の日常を見る    進める