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「……なんでだ?」
「ん?」
「アンタは大切な人を失ったのに、そんなヘラヘラしていられるんだ? アイツはなんであんなに能天気なんだ?」
この親子からは微塵も暗さを感じない。そりゃいつまでも落ち込んでいた方がいいとはオレも思わない
ただどんなに笑っていても過ぎるはずだ
大切な人と過ごした時間を、そしてそれがもう戻ってこない事に
……それなのにこの親子は、どうしてだ………?
「う〜ん…かなたはこなたが生まれてすぐだったしな。こなたはそんなに意識してないのかもしれないな〜
俺は、こなたがいるからな」
「ハァ?」
「ほら、子は親を見て育つって言うだろう?
俺がいつまでもかなたの事で引きずってたら、こなたは不安になる
だから俺は笑って過ごしてる、勿論子供は嘘に敏感だから、本心からね」
オレが見る限りでは、泉そうじろうはそのかなたという人に対する死を乗り越えているように見えた。
だけど、この男がこの結論に達するのにどれほどの時間を費やしたのだろう?
オレは数年経つが、未だに乗り越えれているとは言えない。この差はなんなんだ?
この男が大切な人を亡くした時はもう大人だっただろうし、オレは子供だった
この男には家族が残されているが、オレにはもういない
共通するようなところがあるが泉そうじろうとオレとの境遇は全然違う。
そしてオレは笑顔より剣を選んだ。これが1番の差だ
「……アンタとは違う」
「うん、それはそうだ。君と俺とでは年齢、立場、境遇も違う、それどころか生まれた世界さえも
ただね、それを分かって欲しい、皆違うんだって事をね
全ての人が自分と一緒とは思わないで欲しい、君もこなたも」
「だから…だから人は争うって言うのか!?」
「どうだろうな…ただ、人は自分と違う価値観の人を知って成長するんだと俺は思う
人は良い方に変わって行けるはずだからね」
今までそう考えた事はなかった。
価値観が違えば戦って滅ぼすだけ。それがオレのいた世界だった
そしてオレも少なからずそうだと思っていた。
結局人はどんな綺麗事を言っていてもすぐに、掌を返す。
それは嫌になるくらい経験させられた。
なのにオレは、泉そうじろうの言葉に頷いていた。
それはオレが甘いのか、泉そうじろうの人柄かは分からないけど………
「それじゃあ俺はこれで。また昼飯の時間になったら、呼びに来るから」
泉そうじろうの背中、それは大きくてなんとなく懐かしい光景。
「……はい」
オレの返事に泉そうじろうは振り向いて、少し驚いた顔をするがすぐに嬉しそうな顔になる。
「また後でな、シン君」
泉そうじろうはゆっくりとドアを閉めた。