9
「アスカくん、私が誰だか分かりますか?」
「天原ふゆき先生。この学校の養護教諭でしょ?」
「はい、正解です。ではこの人は?」
そう言うと天原先生はピンク色の髪に眼鏡をかけた少女を指した。
「高良みゆき。オレのクラスの学級委員で博識」
「博識だなんて…そんな………」
「では、そのお隣は?」
「柊つかさ、料理が上手くて、ちょっとドジ」
「あう〜ひどいよ。シンちゃ〜ん」
「では、そのお隣りは?」
「柊かがみ、つかさの姉でツッコミが上手い」
「まて、あんた!!」
「まあまあ柊さん、ではそのお隣は?」
「う〜ん」
オレは改めてかがみの隣にいる少女を見る。
女の子とはいえ同い年とはとても思えない背丈、青色の長髪、左目の近くには泣き黒子、
1回見たら忘れなさそうな特徴をしてるけど………。
「誰だよアンタ?」
「シン、同じギャグは三回も通用しないよ?」
その少女はわざとらしく頬を膨らませているが、どことなく泣きそうな顔になっていた。
「ギャグを言ってるつもりはないんだけどな………」
「やはり泉さんの記憶だけありませんね」
天原先生の言葉に少女は顔を青ざめる。
「シンは…シンは治るよね!?記憶戻るよね!?」
少女は泣いた声で、オレに飛びついて来た。
「ちょっとこなた!? シンはまだ――」
「だって、だってシンが…シンが!!!」
「泉さん落ち着いてください!それをこれから調べますから!」
「……は、はい………」
いつもと違い真剣な口調の天原先生に気圧され少女はオレから離れた。
「一時的な記憶障害ですね。一日も経てば治ると思いますよ」
天原先生の言葉にオレを除く皆に安堵の空気が流れる。
「……良かった」
少女がホッとした顔でこっちを向く。
「……ゴメン」
「えっ?」
「そんなにオレの心配してくれるのにキミのこと思い出せなくて…ホント、ゴメン」
少女の様子を見てるとオレは謝らずにはいられなかった。
「ううん、こっちこそごめんね。みっともないとこ見せちゃったね………」
そう言って少女は照れくさげに笑う。
この少女を見てると、オレはこの少女に何度も助けられてる気がする…そしてそんな大事な人を忘れた自分に腹が立ってくる。
「すみませんが、みなさんは御自分の帰り支度とアスカ君の鞄を持って来て下さい。
アスカ君はそれまで後頭部のタンコブを冷やしておきましょうか」
オレの握り拳に気付いたのか、天原先生が明るく皆を追い出しにかかった。