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「今なんて言った?」

 聞き間違いかもしれない、そう思いオレは泉こなたに聞き返す。

「だから、わたしのこと思い出さなくてもいいよ。

 シンが苦しいのは、わたしを無理に思い出そうとするからなんだよね?」

「まあ…そうだけど………」

 さっきオレ自身も天原先生に似たような事を言ったが、本人に言われるとなんかショックだった。

 所詮オレと泉こなたの記憶があった時の仲はそんなもんだったのかもしれない………。



「……アンタはそれでいいのかよ?」

「うん、シンが苦しんでるところなんてなるべく見たくないしね」

 サラッと恥ずかしい事を例のユルい顔としか表現できない顔で言ってくる泉こなた。

「……というわけで、改めてよろしく!」

「ハァ!? なんでそうなるんだよ!? 記憶を思い出さなくていいって事は、アンタとの仲はこれまでって事だろうが!?」

 いくらなんでもこれはいいすぎたかもしれない。こんなんでも一応恩人の娘だし………。

 ところがオレの言葉を聞いても、泉こなたは少しだけ困った顔をして、頬をかいているだけだった。



「う〜んとね…わたしはシンをゆる〜くするって決めたから! ……覚えてないだろうけどね」

 そういって苦笑する泉こなた。

「何言ってんだ、アンタ!?」

 オレはこめかみを押さえながら、泉こなたに詰め寄る。

 そもそもそんな余計なことされなくてもオレは以前よりユルくなった…ってどうやってユルくなったんだ? 一体誰に?

 昼に浮かんだ疑問が再びオレの頭に湧いてくる。



「勝手にしろ」

 オレはそれだけ言うと泉こなたを措いて歩き出した。



 その時、強い風が吹いた

 まるでオレの行く手を阻むように

 その風は桜吹雪を生み出し、視界を桜の花びらで埋め尽くす



 目の前の桜吹雪の美しさにオレは完全に魅入られていた

 前は花を見てもそんな感情は湧かなかった

 花はただ散るだけのもの、以前のオレはそんな認識しかなく、花を愛でるなんていう心の余裕がなかった



 だけど、今のオレの中には心の余裕が存在している

 そしてそれを最初にオレの中に作ってくれたのは――



 気付くと風は止んでいた





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