家に帰ると、私は真っ先にお母さんがいる台所に向かった。

「お母さん、家にドレスみたいなのある?」

「ドレス? ……あら、デートかしら?」

 デートという言葉に、お母さんの横で晩ご飯の手伝いをしてるつかさの動きが止まる。

「ち、ち、ち、違うわよ!! だ、だいたい誰とデ、デートするのよ!?」

「シン君」

 お母さんの笑顔での切り返しに私は池で飼っている金魚の様に口をパクパクする事しか出来なかった。



「――というわけだからドレスみたいな衣装がいるのよ」

 あの後なんとか立ち直った私はお母さんとつかさに事情を説明する。

「お姉ちゃんミスコンに参加するんだ〜頑張ってね!」

「つかさ。私がミスコンに出るのは二人には言わないでよ」

「二人って…こなちゃんとシンちゃん?」

 当然というのを強調をするため私は首を大仰に縦に振る。

「どうして?」

「決まってるじゃない! あの二人の事だから

『かがみんミスコンに出るんだ〜』

『かがみさまなら余裕だな〜』

 とか言うに決まってるからよ!!」

「お姉ちゃん物まねうま〜い!」

 そこじゃない! と口に出すのをなんとか止めて、私は笑顔でつかさを肩を持つ。

「いーい? 分かった?」

「わ、分かりました〜!」

 私の誠意に溢れる言葉につかさは気を付けの姿勢で頷いた。



「でもそういう事ならドレスを買いましょ」

 私達の会話が終わる頃合を見てお母さんが私に提案してきた。

「えっ? そんな…わざわざ買ってもらわなくていいわよ」

「何を言ってるの。娘のせっかくの晴れ舞台なんだから親としては手助けして当然よ。それに………」

 そこで区切るとお母さんは私の耳元まで近づいてきて囁いた。

「シン君を落とせるチャンスよ」

「な? ……なっ? ……えー!?………」

 なんでみんな一緒の事言うのよ〜!?

 ……でも逆に言えば、みんなが言うって事はこれってチャンスなのかも………。



「そ、そこまで言うなら、お、お願いしようかしら」

「はい、決まり! それじゃかがみのサイズは…この前の身体計測のでいいかしら?」

「……その時は間食をし過ぎてたから…今はもう少しウエストは締まってると思うけど………」

 なんの確証も無く見栄を張ってしまう私。でもこの前より増えてることはないはずよ! ……多分………。

「はいはい。じゃあ少しきつめのドレスを探しとくわね」

「お母さん、わたしもドレス選び手伝っていい?」

「いいわよ。私達がかがみに素敵なドレスを選んであげましょ!」

「お〜!」

 出場する私より盛り上がってる二人を尻目に私は今日何度目か分からない溜め息を吐いた。





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