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「……やっと言ってくれたわね」

「えっ?」

「本音。あんたずっと無表情だったもん」

 あいつに大切、と言われて嬉しかった。

 でもそれよりあいつの心の中を私に言ってくれたのがもっと嬉しくて、場違いな笑みを浮かべそうなのをぐっと堪える。



「あんな怖い顔してたら本気で言ってるのか、分かんないわよ」

「……オレは本気だったぞ」

 なんとか無表情に戻ろうとするあいつ…でも…戻させない!



「違うわよ。あんたは私が怖がってると思いたかった、でしょ?」

「…………」

 見間違いと思えるくらいだけど、あいつは一瞬だけ首を縦に動かした。

「でもなんでそう思いたかったの?」

「知って欲しかった。オレの事…でもそれ以上に怖かったんだ…オレが違う世界の世界の人間で、

オレがやってきた事を知ったお前の反応が………」

 それだけ言うと、あいつは下を向き、自分の拳を握る。

 そうだったんだ…だからあいつはあんな態度を………。



 あいつを責める気は起きなかった。

 あの時、私があいつの闇を振り払えればこんな事にはならなかったのだから。

 何より、こんな小さくなっているあいつは見たくないから………。



「馬鹿」

「か、かがみ!?」

 私は雨に打たれてる子犬のようになってるあいつを抱き寄せる。

「私があんたを怖がると思ってたの?」

「……ああ」

「見くびらないでよ。あんたと何回ケンカしたと思ってんの?」

「……数え切れないな」

「ケンカ相手にびびってたら勝てないでしょ?」

 私が抱きしめてる形になってるか表情は見えないけど、あいつが笑いながら、頷いたのが伝わってきた。

「人の生死に関わった事がない私にはあんたの過去には何も言えない。

 私が言えるのはあんたはこの世界で生きていっていいってことだけ。

 私が認めてあげるわよ。今までだって私達と笑ったり、ケンカしたりして一緒に生きてきたじゃない」

「……ああ、そうだな」



 あいつは少しだけ力を強めて私を抱いてから放す。

「ありがとな。過去の事初めに話したのがかがみでよかったよ」



 そう言って笑ったあいつの顔は私のよく知ってる顔だった。





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