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「怖いわけないじゃない!! ……あんたみたいにスケベで、覗き魔で、女にてんでだらしないやつなんか………!!!」

「かがみ………」

 オレにはかがみの言葉が、かがみ自身に言い聞かせてるように感じられた。

 かがみのオレを怖がらないようにしようとする気持ちは嬉しい。

 だけど、オレは多分またかがみを怖がらせちまう。あんな事はもうしたくない。

「オレは人を殺してきたんだ…アンタとは違うんだ………」

 オレは噛んで含めるように、かがみに最後のカードを切った。



「……だったら、だったら………」

 静寂を破るには余りに弱弱しい声。

 だけどかがみは乱暴に涙を拭うと、オレの方をキッと見る。

 その瞳には決意の色。

「私を殺せる?」

 かがみの言葉にオレは目を剥いた。



「あんたは私を殺せるのよね? それこそなんのためらいもなく」

 かがみの声はあくまでも穏やかだ。まるで小さな子供を尋ねるように。

「そ、そんな事、出来るわけないだろ………」

 かがみの質問にうろたえながら、オレは言葉を搾り出すのがやっとだった。

「どうして? あんたは他の人と違うんでしょ? どんな相手でも殺せるんでしょ?」

「そうじゃない! 出来るわけないだろ!! オレはもう失いたくないんだ!!!

 大切な人を…かがみ、お前を………」



 かがみに答えたオレの声は、自分でも情けないと思うものだった。





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