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あの後、気まずくなった私達はどちらからとも言わず、帰る事になった。
そして私は今、自分の部屋で無力感に包まれていた。
私があいつの過去を知りたかったのは、あいつの事をもっと知りたいため、というのももちろんあったけど、
それだけじゃなくて、私があいつの過去を知る事で私でも何かあいつの助けになれれば、そう思っていた…でもそれは私の自惚れだった。
私がこなただったら、あの場をゆるく出来たかもしれない。
私がつかさだったら、優しく傷を癒す事が出来たのかもしれない。
私がみゆきだったら、理論的に励ます事が出来たのかもしれない。
それなのにさっきの私はただ小さい子供みたいに泣く事しか出来なかった。
私は何も出来ないの?
私はあいつの力になれないの?
「……悔しい…私は…ううっ…私は…うわぁぁぁぁぁ!!!」
今の私には枕を相手に泣く事しか出来ない。
「あいつのあの態度、やっぱり怒ったのかしら………」
ひとしきり泣いて私はようやく冷静さを取り戻していた。
あいつのあの自虐的な言動と、敵意を含んだ眼差しから怒っていたとしか考えられない。
じゃあ何に?
過去を話せって言ったことに対して?
それだったら話さなければいいだけだし…ひょっとして、過去を話した後の私の様子に?
私の様子からあいつの事を怖がってしまったと思われたかもしれない………。
確かにあいつが別世界の人間で、そこでは人を殺していたと聞いた瞬間はショックだったし、信じたくなかった。
……でも、それでも………
私のあいつに対する気持ちは変わらない…あいつの優しさや強さも知ってるし、弱さの訳も分かったから………。
だからせめて、私はあいつを怖がってない、私はあいつの味方ってそれだけでも伝えないと………。
私は携帯を手にしあいつの電話番号を見て、そこで止まる。
電話で通じるの?
こういう事は会って直接言わないといけない、そんな気がする。
幸い明日からは週末、土日どっちかは空いてるはずだから、その時のトレーニングに言えるはず………。
じゃないと私とあいつは………。
私は不安な気持ちを抱きながら、メールを打ち始めた。